研究課題/領域番号 |
20K20575
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
櫻井 武司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (40343769)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 栄養改善 / 乳児 / 貧血 / 栄養補助食品 / 市場 / 都市部 / サブサハラ・アフリカ / ガーナ |
研究実績の概要 |
ガーナの第二の都市クマシ近郊のBosomtwe地区を対象に選び、乳幼児向けの健診施設(CWC, Child Welfare Clinic)に登録している母子を無作為に選び、乳児の貧血に関する情報提供が母親の行動や子どもの健康状態に及ぼす影響について実験を行った。同地区では2020年度に国連世界食糧計画(WFP)とガーナ保健サービス(GHS)が乳幼児の栄養改善を目的とした看護師の訓練プログラムを実施中だったため、実験デザインを次のように設定した。訓練プログラムを実施したCWCを6カ所、実施していないCWCを6カ所選び、それぞれから無作為に半数の3カ所を選び介入群(貧血情報を提供する)とする。
ベースライン調査は2020年8-9月に実施した。対象とする母子は、各CWCを訪問した母子から40名程度を無作為に選んだ。まず、全員に対して家族構成、所得や資産など通常の家計調査に加え、離乳食の内容や子どもの健康状態に関する主観的認識を調査員が聞き取りをした。さらに、子どもの身長と体重を計測し、貧血の状態を検査した。貧血検査は子ども指先から穿刺により採血し、携帯型のヘモグロビン測定装置(商品名:HemoCue Hb 301)にて行った。貧血検査の結果は、無作為に選んだ6カ所のCWCでは、その場で母親に書面で伝えた。伝えたのは、血中ヘモグロビンが7g/ml未満を「重度の貧血」、7g/mlから10g/mlを「中程度の貧血」、10g/mlから11g/mlを「軽度の貧血」、11g/ml以上を「貧血ではない」の4段階である。合計で511組の母子からベースライン情報を収集した。2021年2-3月に、同じ母子を対象に、ベースラインと同じ内容のエンドライン調査を行った。現在、看護師の訓練プログラムおよび貧血情報の提供が、母親の育児や子どもの健康状態(身長、体重、貧血)に及ぼした影響について分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度はコロナウイルス感染症の流行の影響で、研究代表者自身はガーナの調査対象地に赴くことができなかった。にもかかわらず、現地の研究協力者との今までの強力な強力関係に基づき、子どもの貧血情報提供に関する無作為化比較試験を含む複雑な現地調査を実施し、初年度(2020年度)のうちに完了することができた。計画以上の進展であり、特筆すべき成果である。ただし、当初の計画にあった離乳期の栄養補完食品の需要をBecker-DeGroot-Marschak(BDM)法による販売実験により計測することについては、研究代表者自身が現地で実施を指揮する必要があるため、初年度の実施は見送り、次年度(2021年度)に行うことに変更した。当初は貧血情報提供の実験と販売実験を同時に行う計画であったが、この変更により2つの実験は別々に行うことにする。実験デザインが単純になり、この点はむしろ研究によい結果をもたらすことになると予想され、計画以上に進展していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2020年度に完了した子どもの貧血情報提供実験の結果をとりまとめて、論文を執筆する。
次に、2021年8月ころに現地に出張し、Becker-DeGroot-Marschak(BDM)法により離乳期の栄養補完食品の販売実験を行う。その際、被験者となる母親に事前に「お試し使用」の機会を無作為に与え、使用経験が製品の需要に及ぼす影響を評価する。
コロナウイルス感染症の流行が終息せず2021年8月ころのガーナ渡航が難しい場合は、渡航が可能となるまで実施の先延ばしを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の流行のため当初計画していた実験を2つに分割し、一部を次年度に実施することに変更した。また、現地に出張することができなかったので旅費を支出しなかった。これらは2021年度に使用する予定である。
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