CRISPR-Cas獲得免疫機構に関与するRNA依存性DNAヌクレアーゼCas9はガイドRNAと複合体を形成し標的DNAを切断するため、ゲノム編集ツールとして広く利用されている。一方、最近発見されたCas12kはガイドRNAと複合体を形成し、ガイド配列と相補的な2本鎖DNAに結合する。Cas9と異なり、Cas12kはDNA切断活性をもたず、Tn7様トランスポゾン因子(TnsB、TnsC、TniQ)とCAST(CRISPR-associated transposase)複合体を形成し、ドナーDNA中の特定のカーゴ配列をターゲットDNAに挿入する。既知のトランスポザーゼはターゲットDNAの様々な部位にドナーDNAのカーゴ配列を挿入するのに対し、CAST複合体はCas12k-ガイドRNAの結合部位から約60塩基下流の位置にカーゴ配列を選択的に挿入する。ドナーDNAの挿入部位はガイドRNAによって規定されるため、CASTを用いることによりDSBを引き起こすことなくゲノムの狙った位置へのノックインが可能であると期待されている。しかし、Cas12k、TnsB、TnsC、TniQは新規のタンパク質であるため、CASTによるDNA転移反応の分子メカニズムは謎に包まれている。本年度は、Cas12k、ガイドRNA、標的DNA、TniQ、TnsB、TnsC、S15を混合することにより、CAST超分子複合体を再構成したのち、アフィニティービーズを用いて複合体を精製し、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を行い、密度マップを取得した。得られた密度マップを用いて、Cas12k-ガイドRNA-標的DNA-S15-TniQ-TnsC-TnsB超分子複合体の構造決定に成功し、CASTによるRNA依存的DNA挿入メカニズムに関する知見を得た。
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