研究課題/領域番号 |
20K20580
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國枝 武和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10463879)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 乾燥耐性 / 相転移 / 相分離 / ソフトマター / クマムシ / ゲル |
研究実績の概要 |
本研究課題では、これまでに同定してきた脱水ストレスに応答してダイナミックに局在を変え可逆的に繊維構造や液滴構造を形成するクマムシ固有のタンパク質について解析することで、新たな耐性原理の検証と提唱を目指している。本年度は、これら繊維・液滴形成タンパク質について、脱水時の繊維・液滴形成をもたらす分子的基盤および、繊維構造の形成がマクロに与える物性の変化に焦点を当てて解析を進めた。まず、3種類のタンパク質について昨年度までの結果を元に脱水時の構造変化を毀損する新たな変異タンパク質を作成し、脱水時の構造変化が想定されたものであることを支持する結果を得た。さらに、クマムシタンパク質が細胞内で形成する繊維構造の局在と既知の様々な細胞骨格の局在を比較し、クマムシタンパク質が形成する繊維が既存の細胞骨格とは独立した構造であることを示唆した。このことはクマムシタンパク質が単体で繊維構造を形成しうることを示唆している。そこで、精製した繊維形成クマムシタンパク質に in vitro で脱水ストレスを加えたところ、可逆的にゲルを形成することを明らかにした。さらに、繊維化能を喪失した変異タンパク質ではゲル化しないことを示し、ストレスによる繊維化がゲル形成の基盤となっていることを示唆した。これは解析しているクマムシタンパク質について分子レベルの繊維化とマクロレベルのゲル化のリンクを初めて明らかにしたもので、これまで観察されていた繊維化がマクロな物性に影響を与えることを示唆した成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス依存の繊維・液滴形成クマムシタンパク質について、その形態変化をもたらす分子的基盤として、特定の配列領域がストレス依存に起こす構造変化が重要であることを新たな変異タンパク質を用いることで改めて示唆した。また、形成される繊維構造は既存の細胞骨格と一致せず、独立した構造体であることを明らかにした。さらに、クマムシタンパク質の脱水ストレス依存の繊維化がマクロレベルで可逆的なゲル化をもたらす基盤であることを示し、物性解析につながる端緒を得るなど、進捗は順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、まず繊維形成をもたらす分子的基盤については脱水ストレス時に想定される構造変化について実験的に証明する計画である。 また、ゲル化については現状の条件では長期間の保存ができないことから、安定的なゲル化条件を検討し、クマムシタンパク質の繊維化がもたらすゲルの物性や内部構造の解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、一部機器の購入が遅れ間に合わなかった。また、他機関との共同研究に制約が生じ進行が遅れたため。 機器の納入を進めるとともに、他機関との共同研究を加速する予定である。
|