研究課題/領域番号 |
20K20583
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
稲葉 一男 筑波大学, 生命環境系, 教授 (80221779)
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研究分担者 |
大岩 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 主管研究員 (10211096)
岩本 裕之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 客員研究員 (60176568)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 繊毛 / クシクラゲ / 櫛板 / X線繊維回折 / 軸糸 / ダイニン / フォトニック結晶 / 分子モーター |
研究実績の概要 |
繊毛は、高速の波打ち運動を司る細胞小器官である。ヒトでは精子や気管支、脳室などにみられ、繊毛の異常は繊毛病などの疾患を引き起こす。繊毛の構造解明は、生物が形作る構造の理解につながるだけでなく、繊毛に由来する疾患の原因解明や治療にも重要である。クシクラゲの櫛板は、数万本の繊毛が束化しており、繊毛の構造を解明するのに適した材料である。本研究では、櫛板の分子構築と結晶構造を明らかにし、その応用として試験管内で巨大な繊毛を作り上げ、運動するフォトニック結晶作製の可能性も探る。櫛板の分子構築と結晶構造を明らかにする研究目的を達成するために、クシクラゲの1種カブトクラゲ を用いて、4年間で以下の研究項目を進める。研究項目1:櫛板内で繊毛をつなげる構造であるcompartmenting lamella(CL)の成分の同定と分子構築の解明、研究項目2:櫛板の結晶構造の解読、研究項目3:CL成分の添加による軸糸の試験管内束化と巨大結晶化、研究項目4:巨大結晶の構造の解読と光学的特性の解析。本年度は、研究項目1と2において進捗が見られた。研究項目1では、櫛板のCLを構成する新規タンパク質CTENO189が櫛板の遠位側に存在し、すでに報告している近位側CLの成分であるCTENO64と明確に局在を異にしていることが明らかとなった。研究項目2では、SPring8のビームライン(BU40XU)を用いて、生の状態の単離櫛板のX線繊維回折を行った。すでに、結晶性の回折パターンは得ていたが、本年度はトモグラフィーを目的として、櫛板を回転させた時の回折像の取得を目指した。回転開始後、短時間であれば十分な回折像が得られたものの、試料へのダメージが予想外に大きく全ての角度で回折像を得ることはできなかった。急速凍結も含め、試料の調製方法の検討が次年度以降必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1では、新たな櫛板のCL構成タンパク質を同定することができた。さらに、このタンパク質は、既存のCL構成タンパク質と局在および櫛板の繊毛型運動における機能が異なり、CLの機能が櫛板内で分担化されていることが明らかになった。これは、櫛板の長軸で束化の機能が異なっていることを示唆しており、今後、流体力学的にも新たな知見が見出される可能性が期待できる。一方、研究項目2では、十分なX線回折像が再現よく得られたものの、櫛板がX線照射によって受けるダメージが大きく、照射角度を変えた場合の回折像の取得には至らなかった。櫛板がどのくらいでダメージを受けるのかがおおよそ分かったので、次年度以降、サンプル調製法を工夫することにより改善されると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1に関しては、遠位、近位を構成するCLの成分をさらに明らかにする。一定の種類のタンパク質が同定されたら、重合微小管あるいは単離軸糸との混合によって、微小管や軸糸の束化が起こるか否かを検討する。研究項目2では、サンプルの調製法を検討する。特に、微小円筒石英の中に櫛板を封入後、液化プロパンで急速凍結したものにX線照射を試みる。さらに得られた様々な角度でのX線回折パターンから、軸糸の立体構造を再構築するプログラムを考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
X線回折にかかる当初計画実験が予想通りに進まず、試料調製に多くの時間を割いた。このため、計画通りの執行ができなかった。執行できなかった項目は次年度に行うとともに、分担者への配分額も調整する。
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