研究課題
ヒトゲノム機能の解明は生物学の最終目標の一つであり、それによって理解される生物学的な意味でのヒトに関する情報は将来の医学の基盤となるものである。しかし、現在、その全貌解明は足踏み状態にある。申請者は、その原因の一つは「ヒトや霊類に固有の遺伝子 の存在を十分に把握できていない」ことにあると考えている。本研究は、未同定のヒト・霊長類特異的遺伝子群のヒトゲノムにおける遺伝子の探索を行うことを目的としている。申請者はこれまでLTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝 子という通常の遺伝子の概念には含まれない哺乳類特異的遺伝子群の存在と、それらの哺乳 類の個体発生システムにおける極めて重要な機能を実証してきた。 この経験からヒトゲノムの8 %を占めるLTRレトロトランスポゾン/内在性レトロウイルス 由来の配列に、未同定の獲得遺伝子が多数潜んでいる可能性が高いと考え、その存在と機能を実証する方法論を開発した。今年度は、新しくスクリーニングした50以上の候補遺伝子の中から、マーモセットからヒトまで保存されているENV由来の665 アミノ酸からなるタンパク質が、実際にヒトiPS細胞分化の過程で発現していることを実証した。この遺伝子はしらべらえた臓器全てでひじょうに発現量が低いため、本当にタンパク質として発現しているかを確認するため、ヒトiPS細胞において蛍光タンパク質Venusを内在遺伝子に融合させ、融合タンパク質を検出する新しい方法を開発した。これにより、ヒトiPS細胞を3胚葉分化させた時に発現することを確認し、さらに血球系細胞のマクロファージへの分化条件下では高発現することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
50種類以上の候補遺伝子から、最も霊長類で保存性の高いDNA配列を選び、ゲノム編集技術でこの配列に蛍光タンパク質Venusを結合したiPS細胞を用いて、分化条件を設定することで、実際にタンパク質として機能していることを実証でき、論文発表も行った(Matsuzawa et al. Int J Mol Med 2021)。この遺伝子の発現はどの臓器でも非常に少ないものであるが、そのような遺伝子でもスクリーニングできることが実証できたため、今後の新遺伝子の同定に十分、利用できる実験系であることの確証得ることができた。
同定した新遺伝子の機能をKO実験により明らかにする。また、この遺伝子とヒト疾患の関係をGWASのデータを用いて明らかにする。この方法を利用して、霊長類特異的・ヒト特異的遺伝子の同定を継続する。成功例と失敗例を比較することで、体系的な新規遺伝子同定のプロトコールを作成する。
確実にタンパク質発現をする未知遺伝子の探索のため複数の候補遺伝子を解析する必要があり、その計画をしていた。しかし、初めに選んだ候補から非常に良い結果が出たため、この遺伝子に集中して論文化まで行った。そのため、一部費用に残額が生じたが、予定していた複数の候補についても、今年度、予定していた実験と並行して実験を進めており、その費用に充填する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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