研究課題
非標準的な翻訳を受けるRNA (non-canonical translated RNA: nctRNA) を網羅的にマッピングする目的で、ヒト分化多能性幹細胞 (H9 ES細胞株およびWTB6 iPS細胞株) を用いて次に示す試料を調製し、データを取得した。1) 全RNA: すべての転写産物を網羅的に検出しnctRNAのマッピングに使用する。2) 核-細胞質分画RNA: マッピングしたそれぞれのRNAが細胞内のどこに局在するかを示す実験に使用する。3) ポリソーム分画RNA: 翻訳阻害薬であるCycloheximide (CHX) で処理し、リボソームとRNAを固定した状態でスクロースグラジエント法により分画したRNAを用いて、実際に翻訳されているRNAを検出するための実験に使用する。4) リボソーム結合RNA: 上記のようにCHX処理したRNAをRNaseで処理することで、消化されないリボソーム結合RNAをマッピングするための実験に使用する。上記で得られたデータの解析を実施したところ、全RNAシークエンシング (1) およびリボソームプロファイリング (4) については高品質なデータが得られていることを確認した。核-細胞質分画 (2) については、より厳密に分画するための条件検討を実施した。ポリソームを分画した試料 (3) のデータ取得は実施中である。さらに、ヒト分化多能性幹細胞の自己複製 (生存・増殖) に必要な遺伝子をCRISPR interference (CRISPRi) を用いた機能スクリーニングを行った。約18,000のmRNAをターゲットとしたsgRNAライブラリーを用いて、ノックダウン誘導から8および16日後の細胞を解析した。その結果、ヒト分化多能性幹細胞の自己複製に必要な複数の遺伝子を同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
コロナの影響で一昨年度は研究が思うように進まないこともあったが、2021年度は順調に研究が進捗した。
昨年度までに、本研究課題の遂行に必要な実験技術の習得および基本的なデータの取得を行うことができた。まだ検討中の実験や未取得のデータについては、慎重な条件検討を行った後に高品質なデータを取得することを目指す。得られたデータのインフォマティクス解析についても、解析のプラットフォームが揃ってきたので今後はスピードアップが期待できる。RNAや翻訳状態に関するデータが揃いつつあるので、今後は質量分析を用いたタンパク質データを取得し両者を照らし合わせるフェイズへと移行する。共同研究者の努力により質量分析によるタンパク質検出も大きく改善が見られたため、今年度はプロテオーム解析を中心としてプロジェクトを推進する。上記のようにして得られたデータを統合して、ヒト分化多能性幹細胞におけるRNA-タンパク質の完全なマッピングを行う。これらのマッピングデータとCRISPRiを用いた機能スクリーニングにより得られた必須遺伝子リストと照らし合わせる。このようにして、ヒト分化多能性幹細胞の自己複製 (生存・増殖) に必要な非標準的翻訳産物の同定を行う。
計画していた研究を実施する順序に変更があったため、2021年度に使用予定であった次世代シークエンスの費用を次年度に繰り越した。2022年度に実施するので、そこで執行する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Cell Reports Methods
巻: 2 ページ: 100155
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