研究課題/領域番号 |
20K20585
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 和利 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (80432326)
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研究分担者 |
岩崎 未央 京都大学, iPS細胞研究所, 講師 (10722811)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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キーワード | 翻訳 / 多能性幹細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度までに実施したCRISPR interference (CRISPRi) を用いた機能スクリーニングで、ヒト分化多能性幹細胞の自己複製 (生存・増殖) に必要な1800以上の遺伝子を同定した。本年度はスクリーニングでヒットした遺伝子の中から、非標準的翻訳に寄与していることが示唆されているEukaryotic translation initiation factor 3 subunit D (EIF3D) の機能解析を実施した。ドキシサイクリンの添加によりEIF3Dのノックダウンを誘導できるiPS細胞株を作製し、高効率に発現が抑制できることを確認した。ヒトiPS細胞におけるEIF3Dのノックダウンは形態の変化や細胞増殖の停止を引き起こした。遺伝子発現解析により、多能性幹細胞マーカーであるOCT3/4, SOX2, NANOGの低下やp53経路の活性化が見られた。リボソーマルプロファイリング法を用いて、EIF3Dをノックダウンした際の翻訳変化を調べたところ、約1300のmRNAにおいて翻訳量の有意な変化が確認できた。これらは多能性幹細胞の自己複製に重要であることが示されているシグナル伝達経路に属する遺伝子が有意に多く含んでおり、EIF3Dがパスウェイ単位で翻訳制御を行っている可能性が示唆された。また、p53はEIF3Dの直接の翻訳ターゲットではないが、EIF3Dがp53タンパク質の安定性を制御する因子群の翻訳を制御することにより間接的にp53の活性を制御していることを見出した。以上の結果から、翻訳因子EIF3Dが選択的な翻訳制御により分化多能性を維持するメカニズムが明らかとなった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに得たデータを発展させ、良好な結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により、非標準的な翻訳を担う因子が分化多能性の維持に必須であることを明らかにすることができた。このことは、本課題の研究対象である非標準的翻訳の重要性を示している。我々が実施した機能スクリーニングの結果は、EIF3D以外にも多くの翻訳制御因子が多能性幹細胞にとって重要であることを示唆している。そこで今後の展開として、他の翻訳因子の機能解析を実施し、非標準的な翻訳を包括的に理解することを目指したい。 さらに前年度から継続して検討している非標準的翻訳産物である低分子タンパク質の同定であるが、種々の検討により良好な結果が得られつつあるので、今後は質量分析を用いたタンパク質データを取得にも力を入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
プロテオーム解析を行う予定であったが、条件検討等に時間を要し本格的な実施が叶わなかった。検討により適した条件を決定することができたので、次年度に実施する。
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