研究課題/領域番号 |
20K20586
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東樹 宏和 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (60585024)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 微生物 / 微生物叢 / 生物群集 / 時系列動態 / 生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
微生物群集実験や新しく採取されたサンプルに基づくDNAメタバーコーディング分析を行い、さまざまな微生物叢の時系列データセットを得ることができた。土壌由来の微生物群集をinoculumとした実験では、膨大な数のreplicate samplesをとりつつ、群集構造の時系列変遷を追うことができた。膨大な量のDNAメタバーコーディングのデータが得られ、個々のreplicate samplesごとに、amplicon sequence variants (ASVs)レベルでの群集構造がどのように時系列発展していくのかを明らかにすることができた。 こうしたビッグデータをもとにして、metabolic modelingを土台とした、生態系レベルの機能推定を行うことができた。ASVごとに、reference genome配列を基にしたゲノム構造の推定を行うとともに、ASV間でやりとりされると考えられる代謝産物の推定を行った。こうした情報により、複雑な構造をもつ微生物群集内において、種間相互作用の変遷を追うことができるようになった。こうした手法は、水圏微生物叢(aquatic microbiome)の分析において、幅広く適用できると期待される。土壌生態系(soil microbiomes)についても、一定の条件を満たすサンプリング設計を前提として適用できる可能性があり、その検証のための予備解析も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトでは、微生物学・ゲノム科学・分析化学・生態学・数学を融合し、微生物群集(微生物叢)の動態を予測・制御する科学的アプローチを確立することを目的としているが、代謝モデルを扱う高度なメタゲノム分析を生態学に実装する工程の確立等、当初想定していなかった方向性へ研究を拡張することができた。また、論文出版前であるため、詳細を述べることはできないが、生物群集の構造が劇的に変化する前兆となる指標が存在し得ることを、膨大なデータによる分析で明らかにすることができた。理論と実証の両面から、従来の研究にないスケールで生物群集の動態の理解・予測・制御において鍵となる分析の開発を進めることができており、ヒト腸内細菌叢(human gut microbiome)の分析だけでなく、さまざまな微生物生態系において、生物機能を安定的に管理する手法の土台となることが期待される。 現在、こうした成果に関する論文を投稿中、および、執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られつつある生物群集時系列データに、empirical dynamic modeling(Sugihara et al. 2012 Science 338:496-500)やenergy landscape解析(Suzuki et al. 2021 Ecological Monographs 91:e01469)を適用し、異なる生態系間で時系列動態の根本的な性質に違いがあるのか、詳細に分析する。また、群集構造の劇的な変化が、代替安定状態(alternative stable states)間のシフトとして捉えることができるのかどうか、詳細な分析を行う。その際、代替安定状態であることが疑われる代表的な群集構造の間で、生態系全体の機能が大きく異なるのかどうか、メタゲノム情報とmetabolic pathwaysの情報に基づく考察を行う。 最終年度であるため、これまでに得られている成果の論文化を加速させる。また、本研究グループで取得されたデータ以外に、出版済みの先行研究で十分なデータ量をもつ生物群集時系列研究があるか探索し、見つけることができれば、本プロジェクトで整備した分析パイプラインを適用して、その汎用性を確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大や、世界的な半導体不足および物流の混乱等の要因により、納期が未定の消耗品類や分析機器類が多数存在し、年度内の執行が難しい案件について次年度以降に持ち越しとせざるを得なかった。
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