研究課題/領域番号 |
20K20589
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮道 和成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (30612577)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | コネクトーム / トランスシナプス標識 / scRNAseq / 視床下部 / キスペプチン / オキシトシン |
研究実績の概要 |
複雑な神経系の構成原理を理解するためには、個々のニューロンのトランスクリプトームにより規定されるタイプとそれぞれの接続頻度とを紐づけた定量的情報が必要となる。従来の研究ではニューロンの分類と神経接続パターンの解析とは別々に進められており、両者を統合するような方法論が確立されていなかった。本研究テーマでは、狂犬病ウイルスベクターを用いたトランスシナプス標識法に一細胞トランスクリプトミクスを連結することでこの壁を打破することを目指す。2021年度には、およそ3万のユニークなバーコードで標識された狂犬病ウイルスベクターを構築し、これが実際にマウスの運動野において機能的にトランスシナプス標識に利用できることを示した。またバイオセイフティP1レベルで扱える系で神経細胞のscRNAseqの経験を蓄積するコールドランを目指し、近年確立された一細胞単離の技術 (Shima Y et al. bioRxiv 2022.02.13.480207) に基づいて視床下部弓状核から高い生存率にて酵素処理とFACSによる細胞単離とRNA抽出の技術を習得した。また将来において本技術により神経接続パターンの雌雄差や動物の状態による変化を解析することを目指し、視床下部室傍核のオキシトシンニューロンを対象として神経回路の体系的な比較を行った。その結果、雄マウスが父親となる際に視床下部の内部で変化する神経接続を同定した。また雌マウスが母親となる際の神経回路の変化や授乳期の母マウスを特徴づけるオキシトシンニューロンの律動的な活動動態を明らかにして公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い、現在までに約3万の多様なバーコードを持つトランスシナプストレーサーの開発に成功している。また成獣マウスの脳から一細胞RNAseqを実施するため、近年確立された一細胞単離の技術 (Shima Y et al. bioRxiv 2022.02.13.480207) に基づいて視床下部から高い生存率で細胞を単離しRNAを抽出する技術を習得した。これを用いて、性周期の中枢である弓状核のキスペプチンニューロンの発達に伴うトランスクリプトームの変化を定量的に捉える実験を進めている。また、本研究で開発する技術の応用先として神経回路の雌雄差や状態に伴う変化が挙げられる。本年度は、このうち状態に伴う神経回路の変化について検討し、性未経験の雄マウスと父親マウスにおいてオキシトシンニューロンへの入力の変化する神経接続を体系的に研究した。その結果、視床下部外側核の興奮性ニューロンからオキシトシンニューロンへの入力が父親マウスにおいて顕著に強くなることを発見した。このように概ね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には弓状核キスペプチンニューロンを用いたコールドランを完了し、一連のトランスクリプトームデータ解析の技術を習得する。その後、狂犬病ウイルスを用いたトランスシナプス標識サンプルの実験に進み、当初の計画書に挙げたような視索前野から室傍核オキシトシンニューロンへの接続パターンの雌雄差や生後発達、動物の状態に伴う接続頻度の変化を体系的に検討する。この際必要に応じて、できるだけ多くの細胞を効率よく取得することができるように細胞単離の手法を改良する。
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