研究課題/領域番号 |
20K20593
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塗谷 睦生 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60453544)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 組織内水 / 脳 / ケミカルイメージング / 分子動態 |
研究実績の概要 |
脳の機能が溶質であるイオンや生理活性物質によって制御されていることはよく理解されているが、加えて、それらの溶質の共通の溶媒である脳組織内の水の量や状態によって脳機能が強く制御されているという概念が近年提唱されるようになった。しかし、脳は光を通し難く、また、水はラベルが困難なため、脳組織内における水の可視化解析は非常に困難であった。本研究はこれらの問題を、組織透過性が高い近赤外光を用い、分子の固有振動を捉えることで可視化するラマン散乱顕微鏡を適用することで乗り越え、脳内水動態の可視化解析を図るものである。 研究初年度には、解析に用いる顕微鏡の開発を進めた。水の可視化を実現するコヒーレントラマン散乱顕微鏡として、バックグラウンドシグナルが抑えられ、また蛍光などの他のシグナルの夾雑を取り除くことができる、SRS(stimulated Raman scattering)の導入を行った。ここから、SRSによる水の観察ができることを確認した。更に、脳内での水動態の解析には、脳細胞の形態や位置などの評価が必要となるため、これを同時に可視化するシステムの開発を進めた。ここから、SRSと同時に蛍光色素の2光子励起を起こし、そのシグナルを検出する、マルチモダル多光子顕微鏡システムの開発に成功した。これを利用することにより、マウスから調製した大脳皮質の急性脳スライスにおいて、水のSRSシグナルと共に、細胞の形態および溶質としての蛍光色素の同時検出に成功した。今後はこれを用いることで、脳組織内における水動態の解析を進めて行く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の予定通りに研究が進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に記した通り、これまでに、脳組織内の水をSRSで、それと同時に細胞形態や溶質分子を蛍光分子の2光子励起により同時に可視化するマルチモダル多光子顕微鏡系が確立した。今後はこの独自のシステムを活かすことで、脳組織内における水と溶質の動態を捉え、その様々な条件下における変化などに関する知見の獲得を試みて行く。 脳組織内での水動態の解析のため、細胞外液を軽水(H2O)ベースのものから重水(D2O)ベースのものに変換し、各部位におけるSRSシグナルの強度変化をとらえることで、水の置換から水動態に関する知見を獲得する。これに併せて分子量や生理活性などの異なる様々な蛍光分子を細胞外液に導入し、水の流入と溶質の流入を同時に解析し、これらの関係を明らかにする。更に、細胞形態マーカーを用いることで、これらの分子動態への細胞構造の寄与の可能性を検証する。このような解析を通常の脳組織に加えて脳スライス病態生理モデルなどを駆使して行うことで、脳内水・溶質動態の病態における変化などに関する知見の獲得を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた遺伝子改変動物の導入を2021年度に変更したため、それに充てていた約50万円の予算を2020年度から2021年度に繰越し、2021年度に使用する計画である。
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