研究課題/領域番号 |
20K20602
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
尾崎 紀夫 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (40281480)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 22q11.2欠失 / 3q29欠失 / iPS細胞 / 精神疾患 / 心疾患 |
研究実績の概要 |
精神疾患患者は心疾患の合併率が高いことや、心疾患患者で精神疾患が併発し易いことが報告されるなど、双方の関連性が示唆されている。しかし、これまで精神疾患患者の病態解析は専ら脳に特化しており、また心疾患患者の病態解析において精神疾患を意識した解析もほとんど行われておらず、双方の関連性についての証左は極めて乏しい。そこで本研究では、臨床所見、ヒトiPS細胞及びモデルマウスを活用した多層的解析により、心臓病態と脳病態の関連性を明らかにすることを目的とした。特に、精神疾患発症と心異常双方のリスクが高い染色体22q11.2領域欠失および3q29領域欠失に着目し、当該患者の臨床所見とiPS細胞、さらにモデルマウスを用いて解析を行う。 本年度は(1)22q11.2欠失症候群患者iPS細胞からの心臓および脳モデル構築、(2)22q11.2欠失コンディショナルノックアウト(22q11.2-flox)マウスの作製を試みた。 研究項目(1)について、iPS細胞からの心臓モデルの構築のため、心筋細胞への分化方法の最適化を行った。その結果、心筋細胞マーカー(cTnT)陽性かつ自発拍動する心筋細胞が得られた。脳モデルの構築については、神経系細胞および脳オルガノイドでのモデル作製を進めた。これまでに22q11.2欠失症候群患者のドパミン神経細胞では、キナーゼタンパク質であるPERKの機能不全による小胞体ストレス脆弱性や細胞骨格異常が生じていることを見出した。 研究項目(2)としては、脳と心臓の病態の連関を明確にするために22q11.2-floxマウス、および3q29欠失コンディショナルノックアウトマウス(3q29-flox)の作製に着手し、22q11.2-floxの作製に成功している。3q29-floxマウスについては1箇所のノックインには成功しているため、次年度にもう1箇所のノックインを試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究初年度で、計画通り健常者および22q欠失症候群患者由来iPS細胞からそれぞれ心筋細胞、神経細胞を獲得した。また、22q11.2-floxマウスの作製に着手し、作製に成功した。一方で、計画当初に使用を予定していた市販の心筋細胞分化誘導キットが突如販売中止となった影響により、別キットを用いた分化誘導の条件検討が必要となったため、トランスクリプトーム解析や抗精神病薬に対する健常者心筋細胞との比較などに着手できておらず、進捗はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
22q11.2欠失症候群と同様に、3q29欠失症候群患者由来iPS細胞を用いた心臓、脳モデルの確立とともに3q29-floxマウスの作製を行う。確立した心臓、脳モデルについて抗精神病薬に対する薬物応答の違いやカルシウム動態の解析を行うとともに、トランスクリプトーム解析を実施予定である。また、作製したモデルマウスを用いて心臓特異的に標的染色体領域が欠失することで脳機能にどのような影響が出るか、行動解析により検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画当初に使用を予定していた市販の心筋細胞分化誘導キットが突如販売中止となった影響により、別キットを用いた分化誘導の条件検討が必要となり、次年度への予定していた研究内容の持ち越し及び次年度での使用額が生じた。持ち越しが生じた研究費は、初年度に行う予定であったトランスクリプトーム解析や心筋細胞の詳細な解析に用いる。
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