研究課題/領域番号 |
20K20606
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下村 伊一郎 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (60346145)
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研究分担者 |
前田 法一 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (30506308)
西澤 均 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (20379259)
喜多 俊文 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (10746572)
藤島 裕也 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10779789)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | アディポネクチン / エクソソーム / 幹細胞 / セラミド / カドヘリン |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSCs)はT-カドヘリン(T-cad)を発現し、アディポネクチン(APN)添加に応じてエクソソーム(Exo)産生が亢進することを見出した。圧負荷心不全(TAC)モデルにおけるMSCs投与による心機能改善作用は、MSCsのExo分泌に依存し、血中のAPNレベル、MSCsのT-cad発現に依存することを報告した(Nakamura et al., Mol Therapy 2020)。PioglitazoneとMSCsの併用に関して「幹細胞治療増強方法」として特許を申請した(特願2019-234288)。 このような間葉系幹細胞は全身のあらゆる組織に体性幹細胞として存在する。腎はT-cadの発現が特に低い臓器であるが、詳細に検討すると尿細管周囲の毛細血管の周囲細胞に発現を認め、APNの集積も認めた。さらに、腎虚血再灌流障害によって、T-cadあるいはAPN欠損マウスでは野生型よりも尿細管壊死が重度となることを明らかにした(Tsugawa-Shimizu et al., AJP Endocrinol Metab 2021)。 T-cadは血中にExoの構成成分としてのみならず、大部分は遊離タンパクとして存在すること、新規に開発したELISA系によって定量可能であり、また糖尿病患者群の中でHBA1cなどのパラメータと有意な相関を示すことを明らかにした(Fukuda et al., JCEM2021)。 また、生理的APNの主要な受容体はT-cadであること(Kita et al., Elife 2019)、APNによるExo産生調節機構(Obata et al., JCI insight 2018, Kita et al., JCI 2019)が果たす筋再生促進(Tanaka et al., SciRep 2019)や腎虚血再灌流障害の低減作用(Tsugawa-Shimizu et al., AJP Endocrinol Metab 2021)、間葉系幹細胞治療への応用(Nakamura et al., Mol Therapy 2020)を元に、Exoの内分泌機構としての新しい位置づけを提唱した(Kita et al., JB review 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
培養間葉系幹細胞(MSCs)はT-cadを発現し、APN添加に応じてExo産生が亢進することを見出した。圧負荷心不全(TAC)モデルにおけるMSCs投与による心機能改善作用は、MSCsのExo分泌に依存し、血中のAPNレベル、MSCsのT-cad発現に依存することを報告した(Nakamura Y et al., Mol Therapy 2020)。さらに、組織常在性MSCsの一種である腎近位尿細管周辺の毛細血管をとりまく周囲細胞にT-cadの発現とAPNの集積を見出した。腎は他の臓器と比較してもT-cadの発現やAPNの集積の少ない臓器であるが、虚血再灌流による尿細管壊死や血管透過性の亢進は、APNあるいはT-cad欠損マウスにおいて、野生型マウスより有意に進行した(Tsugawa-Shimizu et al., AJP Endocrinol Metab 2021)。 また、このような組織に発現するT-cadの存在量を非侵襲的に概算する手立てとして、血中のT-cadに着目した。血中にはExoに結合したT-cadに加えて、遊離タンパクとしてより多くのT-cadが存在することを見出した。このような血中T-cadを定量するELISAを産学連携して開発し、糖尿病患者臨床パラメータとも相関する新たな指標として報告した(Fukuda et al., JCEM 2021)。さらに、ExoをAPNによって調節を受ける新たな内分泌機構として位置付ける総説を執筆した(Kita et al., JB review 2021)。 以上から、当初の計画以上に進展していると考えるが、引き続き、全身のT-cad発現細胞から産生されるExoの生理病態学的意義を明らかにし、新たな内分泌因子Exoのautocrine, paracrine, endocrine学を生理・病態学的観点から明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
血中Exoを定量する方法として、PEG沈殿法と超遠心を組み合わせた組成性物のSDS-page分離とウエスタンブロッティングによるExoマーカータンパクの定量を行っているが、煩雑であり、また微量採血からの定量は難しい。今年度、先端モデル動物作成支援プラットフォームの支援を受けて、臓器・細胞特異的産生Exo可視化マウスを作製した。本マウスを用いて、血中Exoの主要な産生組織・細胞を明らかにするとともに、組織MSCsが産生するExoの生理的役割とそのAPNによる制御、及びこれらの経路を促進する創薬ターゲットの創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、全身のT-cad発現細胞から産生されるExoの生理病態学的意義を明らかにし、新たな内分泌因子Exoのautocrine, paracrine, endocrine学を生理・病態学的観点から明らかにすることを目的とする。 この中で、本学術研究助成基金助成金以外にも、「アディポネクチンのエクソソーム産生制御とFavineの血管・血栓制御機構の解明」(基盤B、代表:下村伊一郎)、「エクソソーム産生調節を介するアディポネクチン作用の基盤と応用展開」(基盤C、代表:喜多俊文)に加え、「アディポネクチン結合蛋白制御因子に関する創薬研究」と題した興和創薬㈱との共同研究や「アディポサイトカインによるヒト間葉系幹細胞制御メカニズムの研究」と題したロート製薬㈱との共同研究、AMED橋渡し研究基金などの各種競合研究資金を得て、研究を推進している。 繰越金は翌年度分として請求した助成金、また上記の各種研究資金とあわせて、骨格筋・心筋・血管内皮・組織MSCs特異的Exo産生欠損マウスの作出やExo可視化マウスとの交配など、「アディポネクチンと新たな生理活性内分泌因子エクソソームに関する」本研究を推進するために使用する。
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