研究課題/領域番号 |
20K20611
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
滝川 正春 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (20112063)
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研究分担者 |
青山 絵理子 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (10432650)
星島 光博 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (30736567)
久保田 聡 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (90221936)
西田 崇 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (30322233)
江口 傑徳 岡山大学, 医歯薬学域, 講師 (20457229)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / CCNタンパク質 / CCN2 / S-アデノシルメチオニン / ポリアミン / 解糖 / 分化機能 |
研究実績の概要 |
1.昨年度メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)をヒト軟骨細胞様細胞株HCS-2/8の培養系に添加すると、まずCCN2の遺伝子発現が亢進し、次いで2型コラーゲンの遺伝子発現が上昇し、その後、アグリカンの蓄積量(アルシアンブルー染色)も増加すること、また、ポリアミンの前駆体の一つSAM脱炭酸物を合成するSAM 炭酸酵素AMD1の阻害剤、SardomizideをSAMと共に添加するとSAMによるアグリカンの蓄積が抑制されることを見いだした。今年度はこれらの知見を、染色の場合は生化学的手法で測定するなど他の手法を用いて再確認するとともに、1培養細胞株では不十分との考えのもと、ラット軟骨肉腫由来の軟骨細胞様細胞株RCS細胞を用いて確認した。これらの結果はSAMがCCN2の発現を誘導する機能分子であることを示している。また、同培養系にSAMを添加して、スペルミジン、スペルミン等のポリアミンレベルをHPLCで測定すると、両ポリアミン濃度の増加が見られた。従って、SAMは少なくとも一部はポリアミン合成を介して軟骨細胞の分化機能を亢進させることを示唆している。 2.CCN2が関節軟骨形成因子GDF5と結合することはすでに報告済みであるが、CCN2はGDF5とBMPRIbとの結合には影響しないこと、NogginはCCN2のGDF5への結合を阻害することを見いだした。また、CCN2は、軟骨細胞においてGDF5によるSmad1/5/8のリン酸化を増強し、アグリカン遺伝子発現促進作用をさらに増強した。 3.齧歯類の変形性関節症の予防・修復作用を有するCCN2と「陰と陽」の関係があるとされているCCN3の発現が、ヒト変形性肩関節症および変形性股関節症の症状と正に相関することを明らかにした。2と3の知見は本課題後半のコンドロニュートリジェネティクス研究に繋がる重要な基礎的知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
S-アデノシルメチオニン (SAM)がCCN2の遺伝子発現を誘導し、2型コラーゲンの発現誘導やアグリカンの産生を促進する機能分子であることを見いだし、コンドロニュートリゲノミクスの一例を明らかに出来たが、コロナ禍で前年度の確認実験とポリアミンの関与を示唆する結果を得たものの学会発表レベルに留り論文化までは到達できなかった。 コンドロニュートリジェネティクス関連でもCCN2とGDF5が結合することにより各々単独より強いシグナルが軟骨細胞に入ることを見いだしたが、学会発表レベルに留った。また、変形性関節症の予防・修復作用を有するCCN2はCCN3の遺伝子発現を抑制するが、ヒト変形性肩・股関節症においてCCN3の発現が亢進していることを見いだしたことは、今後のコンドロニュートリジェネティクス研究に繋がる重要な知見であるが、学会発表レベルに留まっており論文化までは到達していない。 大きな要因は、コロナ禍で、実験時間の制約、臨床から研究に参加している大学院生の病院への動員によるマンパワーの減少、物流のトラブルによる試薬等の納入時期の遅延、メタボローム解析等の外注環境の悪化等がある。一方、このような不自由な実験環境に置かれたため執筆活動に精を出し、軟骨代謝研究および本研究課題におけるコンドロニュートリゲノミクス研究の中心分子となるCCNタンパク質に関する研究では、蓄積していたデータをまとめ、学術論文3報を出版し、8報をin pressに、著書1冊をin pressに持って行った 結果として周辺領域を含めると論文業績は挙ったものの、当初計画していた実験計画に関する直接的成果としてはやや遅れている一面がある。
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今後の研究の推進方策 |
1.コンドロニュートリゲノミクス研究:①糖質代謝物に関しては、メチルグリオキサール(MG)やグルコサミン(GlcN)等のCCN2等の軟骨成長因子・分化マーカーの遺伝子発現に対する影響を調べる。逆に、CCN2等の軟骨成長因子のMG代謝やアミノ糖代謝に対する影響を調べる。また、グリコサミノグリカン(GAG)オミックス研究も行って軟骨ニュートリゲノミクスの研究成果例を増やす。②アミノ酸代謝物SAMがCCN2を誘導し、軟骨細胞の分化機能を亢進させる機能分子であることを明らかにしたが、そのメカニズムとしてポリアミン合成の促進が考えられたので、CCN2の誘導がポリアミン合成を促進するのか、SAMがポリアミン合成の材料源になるのか、その両者なのか等、軟骨分化機能発現に至る詳細な経路を解明する。また、SAMがCCN2を誘導する分子メカニズム、特にメチル化との関連を調べるとともに軟骨内SAMレベルを上昇させる因子を探索する。③リピドミクスによる新規生理活性代謝物の探索も行い、3大栄養素について研究成果例を増やし、新研究領域コンドロニュートリゲノミクスを開拓する。 2.コンドロニュートリジェネティクス: CCN2の発現を増強すればGDF5遺伝子のSNPによるGDF5蛋白質産生量の減少を、CCN2のGDF5機能増強作用で補完できることが、R3年度の成果2から期待出来る。また、成果3からCCN3の発現を阻害する分子は間接的にCCN2の発現を増強することが期待される。そこで、CCN2の発現を上昇させる(CCN3の発現を阻害する)栄養・代謝物を用いて、GDF5のSNPによる変形性関節症に罹りやすい体質を改善するか否かを、軟骨細胞培養系で調べる。次いで変形性関節症モデルマウス(GDF5ヘテロ欠損マウス)で確認して、コンドロニュートリジェネティクス研究の端緒を拓く一例とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、実験時間の制約、マンパワーの減少、物流のトラブルによる試薬等の納入時期の遅延などで、当初計画していた実験の多くを次年度に持ち越し、R3 年度はすでにあるデータを確認し、追加して論文化を図る実験に絞り、時間と労力は主に執筆活動に費やした。そのため、R3年度の試薬等の消耗品の消費は減っ たが、当然のことながらこれらの試薬等の消耗品は次年度であるR4年度に必要となる。また、GAGオミックス、リピドミクス等のメタボローム解析(外注)はコンドロニュートリゲノミクスを広く展開するために計画していたが、その受注環境がコロナ禍で悪化したため、高額な費用を要するこれらのメタボローム解析を次年度に持ち越したので、その費用もR4年度に必要となる。
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