研究課題
屋外に比較し、屋内におけるPM2.5の濃度、発生源、構成成分、健康影響に関する知見は乏しい。本計画では、『サイクロン技術を適用した先進的装置を用い、種々の公共的屋内空間でPM2.5を採取する。採取微粒子そのものを、抽出操作を加えることなく、細胞や動物に直接曝露し、生体影響を評価する。これにより、当該PM2.5のハザードを同定するとともに、一般大気中(屋外)で採取したPM2.5と生体影響の異同を比較・検討する。一方、金属や炭素、生物成分を中心とする成分分析を実施し、屋外のPM2.5との異同を比較・検討する。また、両粒子について、生体影響と成分の相関解析を行い、生体影響を決定する要因や成分を同定するとともに、粒子間の異同を明らかにする。』ことをめざしている。本年度は、第二年度として、前年度までに開発した可搬型微小粒子サンプラーにより採取した屋外粒子の成分分析を進展させ、主要な成分を同定した。また、地下鉄構内および屋外で採取した粒子中の金属成分についてX線吸収微細構造解析(XAFS)を実施し、Fe(II)とFe(III)の化学形態が異なる可能性を示した。また、屋外大気粒子ではCu(II)の割合が多かったが、地下鉄構内ではCu(I)が存在する可能性が示された。Znに関しては、ほぼ全てがZn(II)であることは屋内外で共通したが、化学形態は異なる可能性が示された。一方、地下鉄構内PM2.5の主要成分である酸化鉄微粒子(Fe2O3, Fe3O4)を気道上皮細胞と骨髄由来抗原提示細胞に曝露した。気道上皮については、細胞活性が低下し、催炎症・酸化ストレスに関連する遺伝子や鉄イオンの細胞内取り込みに関与する遺伝子の発現が増加した。抗原提示細胞については、催炎症性サイトカインの増加傾向が認められた。また、アレルゲン存在下では、アレルゲン単独曝露に比較し、抗原提示に関わる分子の増加が確認された。
3: やや遅れている
我々はバーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中よりPM2.5を採取し、その生体影響を評価してきた。本計画では、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に既に成功し、ポータブルタイプの装置を開発し、それを公共的屋内空間におけるPM2.5採取に適用することを可能とすることができた。これらの機器を、分担者がこれまで粒子採取、測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定をしていた。しかし、世界的、全国的な新型コロナウイルス感染症の蔓延状況は、今年度に入っても一進一退を繰り返し、サイクロン装置を公共的屋内空間に設置することが困難な状況が継続した。このため、当該機器による屋内における粒子採取計画に遅れが生じている。一方、新型コロナウイルス感染症の蔓延は、種々のデイスポーザブルな実験器具の供給状況等にも影響を及ぼし、生体影響評価に必要な実験器具(特にプラスティック製品)や試薬の入手が困難な状況も加わり、粒子の生体影響評価に関してもやや遅れが生じている。しかし、既にフィルター法で地下鉄構内において採取してきたPM2.5を用い、形状および成分分析を進め、これらの成分組成を模擬した粒子で曝露・影響評価に係る研究を進め、屋外粒子との相違を解析することができている。さらに、本年度は、呼吸器や免疫系に加え、新たに循環器系に及ぼす影響の解析も進めることもできている。
(1)PM2.5の採取と採取装置の改良(奥田担当):サイクロン装置による粒子採取について、さらなる効率化に取り組む。当該装置は、屋外には既に常設済みであり、屋内空間への常設に向けた努力、関係者への働きかけ等を継続する。(2)PM2.5の成分分析、発生源解析(高野、奥田担当):採取したPM2.5中の成分測定を継続する。水溶性イオン、元素(金属)、炭素成分に加え、XAFS等の詳細な化学形態分析もさらに進める(奥田)。また、細菌や真菌成分測定を継続する(高野)。加えて、これらの成分組成を基に、発生源を解析する(高野、奥田)。(3)PM2.5の生体影響評価(高野担当):PM2.5の健康影響は、呼吸器系、免疫・アレルギー系、循環器系に発現しやすい。また、公共的屋内空間のPM2.5は遷移金属を含む可能性もある。呼吸器系、免疫・アレルギー系、循環器系の細胞等にPM2.5やその成分の曝露を継続し、1)細胞傷害性、2)催炎症性、3)アレルギー修飾効果、4)酸化ストレス、5) PM2.5やその成分の生体内および細胞内局在等を評価し、一般大気より採取したPM2.5との異同を比較・検討することを継続する。特に、共焦点ラマン顕微鏡を用いた粒子の細胞内分布解析、貪食能、鉄イオンの局在・動態等に注目しつつ、研究を進める。さらに、細胞を用いた実験において顕著な影響が観察された系を優先し、病態形成にPM2.5の経気道曝露が及ぼす影響を疾患モデル動物で評価し、メカニズムの解明をめざす。(4)影響規定要因や成分の同定(高野、奥田担当):(2)で得た各種構成成分と(3)で得られる細胞、動物個体レベルの生体影響指標について、相関解析を実施する。これにより、影響を規定する要因や成分を絞り込むとともに、一般大気のPM2.5との影響の異同をきたす原因(構成成分、発生源)を明らかにすることをめざす。
バーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中PM2.5を採取し、その生体影響を評価してきた。本計画では、予定通り、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に成功し、ポータブルタイプの装置を開発し、数多くの公共的屋内空間におけるPM2.5採取への適用を可能とすることができた。これらの機器を、分担者が測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等の屋内空間に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定としていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、サイクロン装置の設置やその後の採取及び実験計画に遅れが生じた。さらに、デイスポーザブルな実験器具を中心に物流にも影響があり、生体影響評価に必要な実験器具(特にプラスティック製品)や試薬の入手が困難な状況があり、影響評価に関してもやや遅れが生じた。そのため、当該年度の使用額が計画より減少した。これらの遅れを次年度以降で取り戻すために、当該額を次年度に使用することとしたい。
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Asian Journal of Atmospheric Environment