研究課題/領域番号 |
20K20614
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 裕久 京都大学, 地球環境学堂, 非常勤研究員 (60281698)
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研究分担者 |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30348809)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | サイクロン / 生体影響 / 影響成分 / 公共的屋内空間 / PM2.5 |
研究実績の概要 |
屋外に比較し、屋内におけるPM2.5の濃度、発生源、構成成分、健康影響に関する知見は乏しい。 本計画では、『サイクロン技術を適用した先進的装置を用い、種々の公共的屋内空間でPM2.5を採取する。採取微粒子そのものを、抽出操作を加えることなく、細胞や動物に直接曝露し、生体影響を評価する。これにより、当該PM2.5のハザードを同定するとともに、屋外で採取した微小粒子と生体影響の異同を比較・検討する。一方、金属や炭素、生物成分を中心とする成分分析を実施し、屋外の微小粒子成分との異同を比較・検討する。また、生体影響を決定する要因や成分を同定するとともに、粒子間の異同を明らかにする。』ことをめざしている。 前年度までに、屋外大気粒子ではCu(II)の割合が多かったのに対し、地下鉄構内ではCu(I)が存在する可能性が示された。そこで本年度は、Cu(II)とCu(I)の代表例としていずれも不溶性のCuOとCu2Oを対象とし、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞A549、およびヒト単球系白血病細胞株THP-1から分化誘導したマクロファージ様細胞に曝露した。その結果、何れの場合でもCuOと比較してCu2Oの方が強い細胞障害性を示した。 地下鉄構内PM2.5の主要成分である酸化鉄粒子(Fe2O3, Fe3O4)による影響評価についても、引き続き検討を進めた。気道上皮細胞においては、細胞内活性酸素種生成反応の触媒となる細胞内Fe2+の濃度が酸化鉄粒子の曝露によって増加した。血管内皮細胞については、細胞活性の低下、乳酸脱水素酵素の上昇、催炎症性サイトカインの上昇、線溶系調節因子および血管収縮に関わる分子の変動が認められた。また、マウスに酸化鉄粒子を気管内投与した結果、気管支肺胞洗浄液中総細胞数、マクロファージ数、好中球数およびサイトカイン産生量の増加が認められた。Feに関しても価数による相違が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々はバーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中よりPM2.5を採取し、その生体影響を評価してきた。本計画では、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に既に成功し、ポータブルタイプの装置を開発し、それを公共的屋内空間におけるPM2.5採取に適用することを可能とすることができた。 これらの機器を、分担者がこれまで粒子採取、測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定をしていた。しかし、全国的な新型コロナウイルス感染症の蔓延状況は、今年度に入っても一進一退を繰り返し、サイクロン装置を公共的屋内空間に設置することが困難な状況が継続した。このため、当該機器による屋内における粒子採取計画に遅れが生じている。 しかし、既にフィルター法で地下鉄構内において採取してきたPM2.5を用い、形状および成分分析を進めるとともに、これらの成分組成を模擬した粒子で曝露・影響評価に係る研究を展開し、呼吸器、免疫系、循環器系の細胞と、新たに動物個体に及ぼす影響の解析も進めることもできている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)PM2.5の採取と採取装置の改良(奥田担当):サイクロン装置による粒子採取について、さらなる効率化に取り組む。当該装置は、屋外には既に常設済みであり、屋内空間への常設に向けた努力、関係者への働きかけ等を継続する。 (2)PM2.5の成分分析、発生源解析(高野、奥田担当):採取したPM2.5中の成分測定を継続する。水溶性イオン、元素(金属)、炭素成分に加え、XAFS等の詳細な化学形態分析もさらに進める(奥田)。また、細菌や真菌成分測定を継続する(高野)。加えて、これらの成分組成を基に、発生源を解析する(高野、奥田)。 (3)PM2.5の生体影響評価(高野担当):PM2.5の健康影響は、呼吸器系、免疫・アレルギー系、循環器系に発現しやすい。また、公共的屋内空間のPM2.5は遷移金属を含むことがある。呼吸器系、免疫・アレルギー系、循環器系の細胞等にPM2.5やその成分の曝露を継続し、1)細胞傷害性、2)催炎症性、3)アレルギー修飾効果、4)酸化ストレス、5) PM2.5やその成分の生体内および細胞内局在、6) DNA損傷や変異原性等を評価し、屋外で採取した微小粒子や成分との異同を比較・検討することを継続する。特に、共焦点ラマン顕微鏡を用いた粒子の細胞内分布解析、貪食能、鉄イオンの局在・動態等に注目しつつ、研究を進める。さらに、喘息モデルマウスの病態形成に酸化鉄粒子の経気道曝露が及ぼす影響を評価し、メカニズムの解明をめざす。 (4)影響規定要因や成分の同定(高野、奥田担当):(2)で得た各種構成成分と(3)で得られる細胞、動物個体レベルの生体影響指標について、影響を規定する要因や成分を絞り込むとともに、屋外で採取した微小粒子との影響の異同をきたす原因(構成成分、発生源)を明らかにすることをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
バーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中PM2.5を採取し、その生体影響を評価してきた。本計画では、予定通り、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に成功し、ポータブルタイプの装置を開発し、数多くの公共的屋内空間におけるPM2.5採取への適用を可能とすることができた。 これらの機器を、分担者が測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等の屋内空間に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定としていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、サイクロン装置の設置やその後の採取及び実験計画に遅れが生じた。そのため、当該年度の使用額が計画より減少した。これらの遅れを次年度以降で取り戻すために、当該額を次年度に使用することとしたい。
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