• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

脳細胞ネットワークにおける乳酸代謝動学-脳の高次機能や神経疾患の解明を目指して-

研究課題

研究課題/領域番号 20K20631
研究機関横浜国立大学

研究代表者

雨宮 隆  横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60344149)

研究分担者 中村 和幸  明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (40462171)
山口 智彦  明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任教授 (70358232)
研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2023-03-31
キーワードアストロサイト / ニューロン / 乳酸代謝 / ANLS仮説 / 代謝振動 / 因果性 / CCM解析 / 時系列振動
研究実績の概要

脳の高次機能や神経疾患に関わると考えられる脳細胞における乳酸の代謝動態の解明を目的として研究を進めている。そのために,アストロサイトで産生された乳酸がニューロンに輸送されて代謝されるというANLS(Astrocyte Neuron Lactate Shuttle)仮説の検証を行うこととした。アストロサイトで産生された乳酸がニューロンに輸送されて代謝されれば,これら2種類の細胞の間には乳酸輸送に関する因果性が生じる。そこで,申請者らが研究を行ってきた1細胞レベルの代謝振動現象を利用すれば,このような因果関係を統計学的に解析できるものと推論した。
そこで,アストロサイト/ニューロン混合培養系の確立と因果性解析のための統計学的手法の確立の2つを目的として研究を進めた。まず,マウス中枢神経系幹細胞株(MEB5)を用いた共培養系の実験を行った。各種培地組成を用いてMEB5の培養を試みたが,分化に必要な細胞密度に達する前に細胞が死滅する結果となり,本細胞株の培養は困難であることが分かった。そこで次に,マウス胚性腫瘍由来細胞株(P19C6)を選択した。この細胞株は接着性の腫瘍由来であることから,培養が比較的容易であると考えた。レチノイン酸の添加により,分化開始6日目に軸索を有しかつ増殖が見られないニューロンと思われる細胞に,また,10日目には軸索構造をもつ細胞とは別の形状をした増殖細胞のアストロサイトと思われる細胞が出現した。今後,免疫染色などによる細胞の同定が必要であるが,ANLS仮説の検証に必要なアストロサイト/ニューロン混合培養系の確立に向けて大きく前進した。
因果性の統計学的解析手法として,CCM(Convergent Cross Mapping)法をヒト子宮頚がんHeLa細胞スフェロイドの糖代謝振動に適用し,隣接細胞の相互作用をCCM強度として抽出できることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

アストロサイト/ニューロン混合培養系の確立に時間を要している。当初,ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトに分化するマウス中枢神経系幹細胞株(MEB5)を用いて実験を進めていた。培地組成,pH,二酸化炭素濃度を変えて培養を行った。ある条件では,透過顕微鏡で白色または透明のsphereが形成され大きく成長したが,分化させるのに必要な細胞密度に達する前に死滅してしまった。文献を参考にしたり細胞の分譲機関に幾度となく問い合わせたが,結局細胞を増やすことができずに多くの時間を要した。そこで,MEB5を用いることは諦め,マウス胚性腫瘍由来細胞株(P19C6)に着目した。P19C6株は腫瘍由来の細胞株かつ接着細胞であるから,申請者らの研究室で培養しているがん細胞株のように比較的容易に培養が可能であると考えた。培地条件や基板材料を変えて培養を行ったところ,順調に増殖し,また,文献に記載されている通りに,分化開始から6日程度で軸索をもつニューロンと思われる細胞が現われ,分化開始10日目にはアストロサイト思われる細胞が出現した。今後,免疫染色などによる細胞の同定が必要であるが,P19C6株を用いることで,ANLSの検証に必要なアストロサイト/ニューロン混合培養系を確立できるものと考えている。
また,因果性解析については,当初Granger解析を念頭において研究を進めていたが,ヒト子宮頸がんHeLa細胞の糖代謝振動をモデルとして解析したところ,納得する結果が得られなかった。そこで,広く文献調査をおこなうことで,本研究が対象としている非線形振動の因果解析にはCCM(Convergent Cross Mapping)法が優れていることを見い出した。このような予備的解析や文献調査研究にも時間を要した。

今後の研究の推進方策

実験では,アストロサイト/ニューロン混合培養系としてマウス胚性腫瘍由来細胞株(P19C6)を用いて研究を進める。安定した共培養系を確立するために,培地や基板などの培養条件を詰める。これまで,ニューロンとアストロサイトに分化したと思われる細胞が出現しているので,免疫染色などによる同定を行う。並行して,アストロサイト/ニューロン混合培養系を用いて,糖代謝振動の実験を行う。申請者らが確立した1細胞レベルの糖代謝振動計測法を用い,まずは,アストロサイト/ニューロン混合培養系において,細胞内のNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を指標として,脳細胞の解糖系振動をはじめて観察することを目指す。NADH振動する細胞がアストロサイトであるかニューロンであるかを,免疫染色法を併用して明らかにする。乳酸代謝に伴うミトコンドリア振動はローダミン系の膜電位感受性色素を用いて計測する。最終的に,NADH振動とミトコンドリア膜電位振動の因果性を解析し,アストロサイトからニューロンに乳酸が輸送されるというANLS仮説を直接証明することを目指す。
因果性解析については,アストロサイト/ニューロン混合培養系の確立とは別に進める。申請らは,ヒト子宮頸がんHeLa細胞の単層培養系あるいはスフェロイド(細胞塊)系の実験結果を有しているので,これらの実験結果を対象にNADH振動にともなう細胞間相互作用についてCCM(Convergent Cross Mapping)法を用いた因果性の解析を進める。さらに,既に論文発表しているがん細胞のNADH振動の数理モデルを用いて,糖代謝にともなう細胞間相互作用とその因果性に関する解析も並行して進める。
以上のように,アストロサイト/ニューロン混合培養系の確立,1細胞レベルの糖代謝振動の計測,因果性解析を同時に進め,最終的にANLS仮説の検証を目的として研究を進める。

次年度使用額が生じた理由

最終年度の実験研究に使用するための経費を次年度に回したため。
コロナ感染拡大防止のため国内外の会議をオンライン開催で行ったため,当初使用予定であった旅費を全く使用しなかったため。

  • 研究成果

    (25件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] National Institute of Health(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      National Institute of Health
  • [国際共同研究] Lancaster University(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      Lancaster University
  • [国際共同研究] Otto-von-Guericke-Universitat Magdeburg(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Otto-von-Guericke-Universitat Magdeburg
  • [国際共同研究] IIByT, CONICET-UNC(アルゼンチン)

    • 国名
      アルゼンチン
    • 外国機関名
      IIByT, CONICET-UNC
  • [国際共同研究] Universite de Poitiers(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      Universite de Poitiers
  • [雑誌論文] Oscillations and Dynamic Symbiosis in Cellular Metabolism in Cancer2022

    • 著者名/発表者名
      Amemiya Takashi、Yamaguchi Tomohiko
    • 雑誌名

      Frontiers in Oncology

      巻: 12 ページ: 783908

    • DOI

      10.3389/fonc.2022.783908

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Glycolytic oscillations in HeLa cervical cancer cell spheroids2022

    • 著者名/発表者名
      Amemiya Takashi、Shibata Kenichi、Takahashi Junpei、Watanabe Masatoshi、Nakata Satoshi、Nakamura Kazuyuki、Yamaguchi Tomohiko
    • 雑誌名

      The FEBS Journal

      巻: 289 ページ: 5551~5570

    • DOI

      10.1111/febs.16454

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Revival Oscillations in a Closed Bromate‐1,4‐Cyclohexanedione‐Acid System with Ferroin2021

    • 著者名/発表者名
      Kettunen Petteri、Huh Do Sung、Szalai Istv?n、Yamaguchi Tomohiko
    • 雑誌名

      Advanced Theory and Simulations

      巻: 4 ページ: 2100277~2100277

    • DOI

      10.1002/adts.202100277

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 今数理が面白い-医学・生物学への応用-2021

    • 著者名/発表者名
      渡邉昌俊,山口智彦
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 279 ページ: 181

  • [雑誌論文] がん細胞の解糖系振動と悪性度診断への応用2021

    • 著者名/発表者名
      雨宮隆,柴田賢一,山口智彦
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 279 ページ: 183-187

  • [雑誌論文] 数理データサイエンスの拡がりと応用-生命科学から診断支援まで2021

    • 著者名/発表者名
      中村和幸
    • 雑誌名

      医学のあゆみ

      巻: 279 ページ: 188-193

  • [学会発表] がんの悪性度と代謝振動2022

    • 著者名/発表者名
      雨宮隆
    • 学会等名
      電子情報通信学会 有機エレクトロニクス研究会(OME)
  • [学会発表] 細胞の代謝振動と共生~生命機能を探る~2021

    • 著者名/発表者名
      雨宮隆
    • 学会等名
      電子情報通信学会 有機エレクトロニクス研究会(OME)
  • [学会発表] Glycolytic oscillations and their synchronization in cancer cells and astrocytes2021

    • 著者名/発表者名
      Takashi Amemiya
    • 学会等名
      Pacifichem 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] Oscillations and symbiosis in cellular metabolism2021

    • 著者名/発表者名
      Takashi Amemiya
    • 学会等名
      Materials Research Meeting 2021 (MRS-J)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 低酸素誘導因子HIFがヒト子宮頸がんHeLa細胞の解糖系振動へ及ぼす影響2021

    • 著者名/発表者名
      藤田郁真,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] がん細胞におけるミトコンドリアを含めた代謝中間体振動モデル2021

    • 著者名/発表者名
      大平泰央,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] 解糖系振動におけるミトコンドリアの役割2021

    • 著者名/発表者名
      西田雅貴,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] アストロサイト-ニューロン共培養系における解糖系振動2021

    • 著者名/発表者名
      大沼萌香,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] 脂肪細胞の解糖系振動とレプチン振動2021

    • 著者名/発表者名
      森田優月,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] 乳がん細胞の解糖系振動2021

    • 著者名/発表者名
      藤白直人,柴田賢一,雨宮隆
    • 学会等名
      第31回 非線形反応と協同現象研究会
  • [学会発表] 細胞の代謝振動と数理モデル-がん細胞の悪性評価への応用-2021

    • 著者名/発表者名
      雨宮隆
    • 学会等名
      電子情報通信学会ソサエティ大会,先端バイオテクノロジーの医工展開
  • [学会発表] 細胞の代謝共生動態のメカニズムと機能2021

    • 著者名/発表者名
      雨宮隆
    • 学会等名
      電子情報通信学会 有機エレクトロニクス研究会(OME)
  • [学会発表] The influence of velocity refresh in Sequential MCMC with the Invertible Particle Flow and Discrete Bouncy Particle Sampler2021

    • 著者名/発表者名
      Yu Han, Kazuyuki Nakamura
    • 学会等名
      The 53rd ISCIE International Symposium on Stochastic Systems Theory and Its Applications(SSS '21)
    • 国際学会
  • [図書] Glycolytic Oscillations in Cancer Cells in Physics of Biological Oscillators2021

    • 著者名/発表者名
      Takashi Amemiya, Kenichi Shibata, Masatoshi Watanabe, Satoshi Nakata, Kazuyuki Nakamura, Tomohiko Yamaguchi
    • 総ページ数
      15
    • 出版者
      Springer Nature

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi