研究課題/領域番号 |
20K20642
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 周 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30272371)
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研究分担者 |
関 和彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, 部長 (00226630)
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 超音波 / 神経細胞 / 運動誘発 / 発火 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本研究では,超音波照射により神経細胞群に生じる集団的発火とラットの経頭蓋超音波照射により誘発される運動に関する実験の関係を結びつけることにより,超音波照射のもたらす力学的刺激が脳神経系の活動及び生体の運動を誘発するメカニズムについて知見を得ることを目的とする.また,それらをシミュレーションにより再現する数理モデルを構築し,運動誘発の最適条件などを検討するためのツールを開発することを目指す.ここで得られる成果は,今後,脳神経系に損傷を与えない低強度の超音波による脳活動の活性化などへの応用に繋がり,将来的にはリハビリや認知機能の改善などへの革新的技術へと展開していく可能性を秘めている. 本年度は,神経細胞を培養した基板上に超音波照射をおこない,超音波照射時に引き起こされる現象について解析を行った。これまでのところ,超音波照射時には,基板上に培養された細胞群からカルシウムイオンが放出されるのを観測することに成功しており,超音波照射による力学的刺激が,神経細胞の活動に影響を与えているのを確認できている。また,照射超音波が低周波のときにこの現象が,キャビテーション気泡の体積振動と関連が高い可能性が高いことが示された。一方,高周波側で観測される現象に関しては,キャビテーション現象そのものとの関連が低いと考えられ,細胞のサイズと超音波の波長の関係から考えると,個々の細胞と超音波の相互作用により引き起こされる現象と考えるよりは,多数の細胞が結合した細胞群と超音波の相互作用により引き起こされると捉えるのが良いことがわかってきた。今後は,具体的に神経細胞群の群としてのサイズと照射超音波の波長,カルシウムイオンの放出,さらには神経細胞の発火現象の関係を調べて行くのが重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基板上に神経細胞を培養し,超音波照射による実験を遂行し,カルシウムイオンの放出が起きる条件を調べることに成功した。特に照射超音波の周波数が低いときに,カルシウムイオンの放出がおきる条件を探索し,カルシウムイオンの放出が確認された条件では,キャビテーション気泡からとと考えられる音響シグナルを検知することに成功した。以上より,低周波で神経活動の誘発が起きる際には,照射超音波によるキャビテーション気泡の生成が関与している可能性が示された。当初の予定では,超音波トランスデューサーを新たに購入し,条件を詳細に振る予定であったためその点ではやや遅れている。しかし,キャビテーション現象との関係について重要な知見が得られているため,この点で当初の予定より成果を挙げられており,全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
超音波照射によりカルシウムイオンが放出される条件に関して,超音波側の条件は絞られてきたが,メカニズムについては未知な点が多い。特に,キャビテーションの影響が少ないと考えられる高周波超音波の照射条件においては,一つ一つの細胞のサイズ(10ミクロンオーダー)と照射超音波の波長(mmオーダー)のスケールが大きく隔たっていることより,超音波照射による空間的な圧力分布が直接,細胞一つ一つに力学的な影響を与えているとは考えづらい。可能性として考えられるのは,神経細胞がネットワークを形成しているため,多数の神経細胞が集まった細胞群全体として,波長スケールで変化する圧力の空間勾配を感知している可能性がある。すなわち,波長スケールで変化する空間勾配の影響により細胞群の異なる位置で異なる圧がかかることにより,細胞群全体に伸張あるいは圧縮の応力がかかり結果として個々の細胞に応力が加わりカルシウムイオンの放出へと繋がるという仮説である。この仮説を検証するためには,基板上に培養する細胞群のサイズを変化させ,波長との比をパラメータとしてデータをまとめる。細胞群が波長より十分小さい場合にはカルシウムイオンの放出が生じず,波長程度および波長より大きいサイズの細胞群のときにカルシウムイオンの放出が検出されれば,細胞群に作用する応力が重要となることが示唆されることとなる。本年度は,この部分を検証するための実験を実施し,カルシウムイオンの放出および細胞群としての発火現象との関係を調べて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により自粛期間が生じたため,実験実施のための準備に遅れが生じ,最初の実験セットでデータを取得するに留まった。得られた実験データをもとに実験装置の改良を行い,新たに超音波トランスデューサーを購入し,実験系を構築する予定であったが,その部分が間に合わなかったため,次年度使用額として請求した次第である。現在,新たな実験系を構築するための準備をしており,2021年度に遂行予定である。
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