研究課題
心不全とは心臓のポンプ機能が低下して、抹消臓器に充分な血液を送れない状態である。わが国では75歳以上の約50%が心不全患者である。発症後の5年生存率も悪く、決定的な治療法が無い。心不全に至る原因や過程は一様ではないが、唯一、高血圧などのメカニカルストレスは共通の引き金である。このため、メカノセンサーを介した心不全発症機構の解明による画期的治療法の確立が期待されている。これまでの我々の研究から、心臓のメカノセンサーの分子実体はTRPV2であり、心臓の形や機能の維持にはTRPV2を介したCa2+シグナルが必須であることが明らかとなってきた(Katanosaka et al., Nature Commus, 2014)。しかしながら、拍動している心臓において、『メカノセンサーを介したCa2+シグナルが心筋細胞のどの部位で生じて』、『血行動態変化に伴ってシグナルがどのように変化するのか』については全く明らかになっていない。本研究では、拍動している心臓においてTRPV2を介したCa2+シグナルを可視化し、心筋細胞内の機械受容機構(メカノトランスダクション)の起点と、その分子基盤を解明する。本年度は、拍動する心臓で介在板からのCa2+シグナルを得られるか解析するために、心筋細胞に感度の高いCa2+インジケーターを導入した遺伝子改変マウスを作製した。既存の心筋細胞特異的TRPV2ノックアウトマウスと、GCaMP6sマウスを交配して、心筋細胞にGCaMP6sを導入した遺伝子改変マウスをライン化した。新生児マウスから心筋細胞を単離培養し、自律拍動に伴うGCaMP6sシグナルの変化を確認した。cKOマウスから単離した心筋細胞との比較のためには、S/N比を上げる必要があり、現在工夫しているところである。
2: おおむね順調に進展している
既存の心筋細胞特異的TRPV2ノックアウトマウスと、GCaMP6sマウスを交配して、心筋細胞にGCaMP6sを導入した遺伝子改変マウスを、ライン化することに成功した。予定通り、産仔は得られており、新生児マウスから心筋細胞を単離し、自律拍動する心筋へと培養し、GCaMP6sシグナルを観察できている。また、介在板からのTRPV2を介したシグナル経路を同定するための手段として、介在板を構成する分子のうち、TRPV2と生化学的な相互作用を示す分子を複数同定した。これらのことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
本年度は、心筋細胞にGCaMP6sを導入した遺伝子改変マウスをライン化した。新生児心筋細胞系にて、機械刺激や自律拍動に伴うCa2+シグナルをGCaMP6sでモニターできることを確認した後、生体でのGCaMP6sシグナルをモニターできるよう検討する予定である。
TRPV2cKOマウスをバックグラウンドとしたGCaMP6sマウスのライン化に、複数回の交配が必要であり時間を要したため、このマウスや単離細胞を用いた実験が遅れたため、使用計画通りに経費を使用することができなかった。次年度から、本来の実験目的である生体内および単離細胞のGCaMP6sシグナルの可視化に取り組むことが出来るため、それらに必要な物品費等に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
Arthritis Rheumatol.
巻: 73 ページ: 1441-1450
10.1002/art.41684