研究課題/領域番号 |
20K20645
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 淳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (60360608)
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研究分担者 |
上木 岳士 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (00557415)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / 液々界面 / 細胞接着 / ナノフィブリル / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
一般に細胞は固体・ゲル状の基質のみで接着・伸展できると考えられるが,我々は水と二相分離するパーフルオロカーボン類などの液体でも適切なものを選べば,界面にタンパク質の自己組織化膜が形成されて細胞が接着できるようになることを突き止めている。本研究では,この液々界面培養技術をさらに拡充すべく,より培養に適した液体基質の探索と,界面に対するメカノセンシング機構の探究,ならびにエマルション培養への展開を検討することを目的としている。第2年度は,液々界面に形成されるタンパク質のナノフィブリル構造に対する細胞力覚の探究を中心に研究を進めた。 ナノフィブリル形成タンパク質としてリゾチームを用い,加熱処理後に界面に自己集積化させた。この界面に付着させたヒト間葉系幹細胞(hMSC)は,ミオシン阻害剤などの添加により伸展面積が低下することから,細胞は界面に形成されたナノフィブリルを力覚していることが確認できた。また,ナノフィブリルの界面への吸着時のpHを低下させることで吸着密度は増大し,神経分化マーカー(TUBB3, MAP2)の発現も亢進した。この際,メチルβシクロデキストリン処理によって脂質ラフトを崩壊させたところ,接着班部におけるFAKのリン酸化が低下するとともに,MAP2の発現も大幅に減少することが分かった。以上より,液々界面に形成されたナノ構造と細胞側の脂質ナノドメインのナノスコピックな構造共鳴が神経分化誘導の本質であるというメカノセンシング機構が明らかになった。 また,前年度の作製した細胞骨格をGFP染色した細胞株を用いて,界面における細胞接着の経時変化を観察ができることも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自発的にナノフィブリルを形成するタンパク質を界面吸着分子に用いることで,hMSCの神経分化が促進することを確認し,且つ各種阻害剤等を用いた研究から,脂質ラフトを介して力学的対話を行っていることを強く示唆する結果が得られた。また,先の研究では,界面に吸着させたフィブロネクチンが,細胞の牽引力に伴う界面面積の増大によってジャミングし,フィブリル化が促されることを確認していたが,今年度の研究からナノフィブリル構造の重要性がより確実のものとなった。このような結果は,フィブロネクチンやナノフィブリルを吸着させたガラス基板では観察できず,アダプティブな液々界面だからこそ見られる特徴的なメカノセンシング機構が明らかになり,今後の液々界面培養系における細胞培養・分化誘導のために重要な知見が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度,2年目の結果を踏まえつつ,液々界面系のエマルション培養系への拡張のための検討に着手する。例えば,各種疎水性液体によるエマルション形成能や,吸着分子・エマルション粒径による界面の安定化ならびに界面への細胞培養の可否等,本戦略のロバスト性を中心に検討を行い,液々界面技術の拡充をさらに進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度早々に当該研究に必要な装置を購入する予定である。
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