研究課題/領域番号 |
20K20646
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
山岡 哲二 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
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研究分担者 |
神戸 裕介 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 上級研究員 (30747671) [辞退]
佐藤 充 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (90391565)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | β2ミクログロブリン / DNCS / 一本鎖抗体 / ナビゲーター / 体外排泄 |
研究実績の概要 |
透析アミロイドーシスは,長期透析患者に発症する合併症でβ2ミクログロブリン(β2MG)を前駆タンパクとするアミロイド線維が沈着する疾患である。本研究では新たな概念,Drug-Navigated Clearance System(DNCS)による治療法を提案している。DNCSとは体内の病因物質を別の正常な代謝経路へと誘導することで,体内から除去する治療戦略である.標的捕捉分子と目的部位への誘導分子の複合分子からなるDNCS薬剤により,血中β2MGを捕捉し,腎臓とは異なる代謝経路である肝臓へと誘導するために,in vitroでの標的捕捉から、細胞取り込み,臓器への誘導を検証し非臨床POCを構築する。 β2MGの捕捉分子として、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIα3ドメイン(MHC α3)を、肝臓への誘導分子として、アポリポタンパクEのN末端領域(ApoE NTD)を選定し、両者の融合タンパク(ApoE NTD-MHC α3)を合成した。そして、ApoE NTD-MHC α3と脂質(DMPC)とを混合し、得られた複合体をナビゲーターとした。 Alexa750標識β2MGとナビゲーターとの混合液をマウス(C57Bl/6N、12-15週齢、雄)に尾静脈投与し、β2MGの体内動態を評価した。尾静脈投与されたβ2MGのナビゲーターの有無に依る肝臓、腎臓への蓄積量の変化を図3に示す。ナビゲーターが無い場合、尾静脈投与されたβ2MGは本来の代謝経路である腎臓に最も蓄積した。一方、ナビゲーターの導入により、β2MGの肝臓蓄積量、腎臓蓄積量がそれぞれ有意に増加、減少した。これより、ナビゲーターによって、β2MGの代謝経路を腎臓から肝臓へと人工的に切り替えることに成功し、J Controlled Release誌(IF7.94)にて発表した。また、得られた一本鎖抗体に関して特許申請(特願2021-18579)を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開発したナビゲーターの導入により、β2MGの腎臓蓄積量が減少し、肝臓蓄積量が有意に増加した。これより、ナビゲーターによって、β2MGの代謝経路を腎臓から肝臓へと人工的に切り替えることに成功し他ことを示す。J Controlled Release誌(IF7.94)にて発表した。また、得られた一本鎖抗体に関して特許申請(特願2021-18579)を完了した。いずれもR3年度での達成を想定していたが前倒しの達成となり、計画以上の進展と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度に達成した、β2MGの腎臓と肝臓との蓄積割合のスイッチングは有意な成果であったが、その数値的な効率は十分とは言えない。ここに大きく影響しているのは、実験モデルに正常マウスを使っていることである。正常状態ではβ2MGは腎臓へ速やかにまた効率的に分布処理されることから、本モデルでは、(1)β2MGの正常な代謝に基づく腎臓での処理と(2)ナビゲーターによる肝臓への誘導が速度論的に競争することとなり、前者が極めて効率的であることが大きく影響している。一方、透析アミロイドーシスのような病態では前者が進まないために血中β2MG濃度が上昇する。したがって、我々のナビゲータの有効性を真に確認するためには腎不全モデルマウスを用いる必要があるが、これまでに適切なモデルは確立されていない。今後、以下に示すようなモデルの構築と評価により我々のDNCSメカニズムの実証を進める。 (1)血中β2MG濃度が高値を示すマウスを選定する.候補として,原発性ネフローゼマウス(ICGNマウス;医薬基盤研より提供予定)とヒトβ2MG過剰発現マウス(hβ2MTg+/+,mβ2m-/-マウス;信州大学 樋口京一教授に提供依頼の必要有)を検討する.(2)ICGNマウス,ヒトβ2MG過剰発現マウスは透析アミロイドーシスの病態を示さない.これらのマウスに対してβ2MGアミロイド線維形成の核となり得る物質(βシート形成ペプチドなど)の血中投与や腎臓の部分摘出を行う.そして,アミロイド線維の検出試薬となるチオフラビンTや抗β2MG抗体を用いた組織的評価によりβ2MGアミロイド線維の形成,沈着を評価する.(3)腎臓部分切除によってβ2MGの処理能力が低下したモデルマウスでの検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、つくばにある国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門佐藤 充上級研究員との共同で研究を遂行している。Covid禍により共同研究の遂行が著しく遅れたこと、また、研究分担者である神戸裕介研究員が令和3年3月30末にて転出することがわかったため、これまでの研究環境とノウハウを新たな研究員へと伝える作業に時間がかかったことから研究費の執行が遅れた。このような状況のもとでも、目的としていた英文誌での採択と特許申請を何とか達成できたものの、期待していた取得データには届いていない、令和3年度にこれらの遅れを取り戻すべく予算をい繰り越して研究に当てることが予算の有効利用につながると判断したため。
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