最終年度は、遅延していた国際学会大会において研究成果を“The Issue of Gene Doping through the application of CRISPR-Cas9 technology”と題して発表した。この発表ではCRISPR-Cas9の開発を契機とする新たな技術に着目し、ドーピング問題と未来社会のあるべき姿を考察した。 発表は以下の3点についてアメリカのスポーツ哲学者の意見を中心にまとめた。①「遺伝子治療を応用する方法」は2003年に禁止されたが、その後、CRISPR-Cas9の応用に連動した2018年のWADC「遺伝子編集技術の応用の禁止」の流れがスポーツ界にどのような影響を与えるか。②2018年のWADC「遺伝子編集技術の応用の禁止」がエリート・スポーツ、世界選手権大会、オリンピック大会等の枠組みを改編する可能性についてどのように考えるか。③遺伝子編集技術を治療ではなく、治療を超えてエンハンスメント的に利用することについて、どのように考えるかである。 結論として、現状ではCRISPR-Cas9技術を応用して選手への遺伝子ドーピングを実施することは難しいが、近未来には遺伝子治療の日常化が訪れ、それによって多くの事例の出現が推測される。そのため、遺伝子ドーピングに関して、ポストヒューマン、トランスヒューマン時代をどのように考えるべきかの議論が重要であり、アントラージュやステークホルダーが結集して推進されるべきと提案した。 この発表に併せて、大会期間中にCRISPR-Cas9技術がスポーツ界に及ぼす調査を半構造化インタビュー(倫理委員会承認)によって実施した。このインタビューは、CRISPR-Cas9の影響に加えて、今後のスポーツ界のドーピング問題や遺伝子編集技術にまつわる生命倫理の問題について、研究者らの意見を調査し、現在、その分析を進めている。
|