研究課題
細胞は様々なストレスにより老化する。老化細胞は炎症性サイトカインや増殖因子などを分泌する形質を獲得する。これは、Senescence Associated Secretory Phenotype(SASP)と呼ばれ、分泌されるSASP因子は老化関連疾患の発症あるいは増悪の原因と考えられている。しかし、これまで同定されているSASP因子は分裂細胞についての知見であり、有糸分裂後体細胞であるヒト心筋細胞から分泌されるSASP因子については明らかにされていない。本研究の目的は、老化ヒト心筋細胞由来のSASP因子の特定、機能的役割と誘導機序の解明である。iPS由来ヒト心筋に、DNA障害 (ドキソルビシン)、代謝性ストレス(パルミチン酸)、酸化ストレス (tert-ブチルヒドロペルオキシド)を与えたインビトロ実験の結果から、老化関連βガラクトシダーゼ染色陽性の老化ヒト心筋細胞から、可溶性細胞接着因子の遺伝子発現レベルとタンパク質分泌レベルが増加することを同定した。ウェスタンブロック実験からNFkB シグナルの活性化されていること、NFkB シグナルの抑制実験から可溶性細胞接着因子の遺伝子発現レベルとタンパク質分泌レベルの増加が抑制されることから、可溶性細胞接着因子の遺伝子発現レベルとタンパク質分泌レベルの増加はNFkB シグナルの活性化が必要であることが明らかになりつつある。さらに、NFkBシグナルの活性化と可溶性細胞接着因子の分泌レベルに対して抑制的に働く因子が解明されつつある。さらに、その因子の遺伝子内に存在し、同定した可溶性接着因子を標的とするmiRNAが解明されつつある。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主目的である、ヒト心筋細動由来のSASP因子が解明されつつあるだけでなく、SASP因子の制御機序が解明されつつある。
ヒト心筋細動由来SASP因子として同定している可溶性細胞接着因子は、血管内皮細胞では既知のSASP因子であるので、老化内皮細胞で報告されている分泌接着因子の制御機序が心筋細胞にも同様に利用されているか検討するため、内皮細胞と心筋細胞の比較実験を行う予定である。高脂肪食負荷による代謝負荷誘発性個体老化促進を行い、インビトロ実験で観察された結果がインビボ実験系においても再現されるか検討する予定である。また、分泌接着因子はマクロファージなどの炎症性細胞の移動や浸潤を促進する可能があるので、機能解析としてトランスウェルアッセイでマクロファージの走化性に対する影響を検討する予定である。
前年度は、既に申請者らの研究室および研究施設に備わっている研究材料、試薬、機器の使用で実験が可能であったため、次年度の使用額が生じた。
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