研究課題/領域番号 |
20K20663
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
平野 勝也 香川大学, 医学部, 教授 (80291516)
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研究分担者 |
橋本 剛 香川大学, 医学部, 助教 (80380153)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / 凝固因子 / プロテイナーゼ活性化型受容体 |
研究実績の概要 |
トロンビン受容体PAR1欠損マウスと野生型マウスにおいて、加齢、性差、高脂肪食負荷の複数の因子に関して、インスリン感受性と耐糖能を解析した。若齢期(24週齢)では、PAR1欠損マウスと野生型マウスとで、雌雄ともに、インスリン感受性に差が認められなかった。50週齢を超えたマウス(高齢)において、野生型と比べてPAR1欠損マウスは、雌雄ともに、インスリン抵抗性の発症が抑制され、耐糖能も良好に維持されていた。8週齢から12週間にわたり高脂肪食負荷を行った場合に生じる体重増加とインスリン抵抗性の発来は、野生型とPAR1欠損マウスで同等であった。埋め込み型加速度センサーを用いて自発活動量を計測したところ、24週齢頃まで、PAR1欠損マウスの自発運動量は、野生型マウスより高く、週齢を重ねるごとに両者の運動量の差が消失した。インスリン抵抗性に差が生じた50週齢における自発活動量は、野生型とPAR1欠損マウスとの間に有意な差は認められなかった。
グルココルチコイド受容体阻害剤ミフェプリストンの長期投与により、マウスにおいて肥満が発症し、脂肪前駆細胞において脂肪細胞への分化が促進することを見出した。
加齢性インスリン抵抗性を引き起こすPAR1のアゴニストとして機能する因子は不明である。ヒト凝固第XI因子が、トロンビン受容体PAR1を活性化するアゴニスト作用を有することを見出した。ラット胎仔大動脈由来培養平滑筋細胞を用いて細胞内カルシウムシグナルを指標に、第XI因子の受容体アゴニスト作用を検証した。第XI因子は、平滑筋細胞の細胞質カルシウム濃度上昇反応を引き起こすことを見出した。主に細胞外からのカルシウム流入により細胞内カルシウムを発生させて、そのカルシウム流入経路は、電位作動性L型カルシウムチャネルであることを薬理学的阻害の抑制作用により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トロンビン受容体PAR1の欠損により、肥満に伴うインスリン抵抗性の発来は影響を受けないが、加齢に伴うインスリン抵抗性が特異的に抑制されるとした予備的実験結果を、初年度の研究により追認でき、本研究で証明することを目的する作業仮説の確からしさを確認できた。今後の研究の方向性を定めるに資する成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
加齢に伴うインスリン抵抗性の細胞学的メカニズムを明らかにする。そのために、野生型およびPAR1欠損マウスから骨格筋、肝臓、脂肪組織の細胞を単離し、PAR1作動薬の糖代謝に及ぼす作用を解析し、また、インスリンによる糖取込み、それに関わる輸送体などの発現、膜輸送に及ぼす影響を明らかにする。さらに、これらの細胞の遺伝子発現パターンに及ぼすPAR1作動薬の作用を網羅的に解析し、インスリン抵抗性発症の分子機構を明らかにする。
高齢マウスにおいて、脂肪組織の慢性炎症の程度や関与する炎症細胞の違いなどを、PAR1欠損マウスと野生型マウスで比較し、加齢性インスリン抵抗性発症機構を明らかにする。
野生型マウスを用いて、加齢に伴うインスリン抵抗性の発症に対するPAR1拮抗薬の予防および治療効果を検証する。若齢からの長期投与あるいは加齢性インスリン抵抗性を発症した後からの長短期的投与の予防および治療効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した研究をほぼ順調に実施し、本年度予算の96%を執行した。実験試薬の購入において若干の残額が生じた。
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