研究実績の概要 |
脳神経細胞機能の変性や消失を伴うアルツハイマー型認知症(AD)のような疾患の病態診断の開発を目的として、神経細胞中のミトコンドリアで起こる酸素代謝、すなわち酸素ガスを取込んで水へ変換する反応を非侵襲的かつ定量的に計測することを計画した。高知大学が所有する動物用強磁場MRI装置を用いて、インビトロ17O濃度定量と画像化法の確立、インビボでの17O濃度測定と濃度動態の画像化の検討を行う。 インビボ17O水定量として、健常マウスに7%から70%の17O標識水を尾静脈から投与し、マルチボクセル17O-MRS測定を実施し、動物実験における検出感度の面からTR/TEといった測定条件やスキャン数や、17O標識水の投与量を検討した。検討結果を踏まえた標識濃度の17O標識水を含むリン酸緩衝液を、老齢のADモデルマウス(AppNL-F-KI)の尾静脈から投与し、T1,T2強調FSE画像を測定後、最適条件でマルチボクセル17O-MRSの時系列的観測を実施した。健常マウスとADマウスの信号強度を比較したところ、ADマウスでは健常マウスと異なる17O水分布パターンを示すことが示された。さらに17O標識酸素ガスを投与したマルチボクセル17O-MRSの時系列的観測では、ADマウスと健常マウスでは脳内の17O水の信号強度に関して異なる分布のパターンを示し、酸素ガス由来の水生成量は、健常マウスとADマウスとで異なることが判明した。本研究で発見したMRI観測法を行うことで、脳内の水の分布や呼吸により水生成から、アルツハイマー症と健常状態とを区別することができると考えられ、アルツハイマー症の発症や治療を非侵襲的に観測するツールとして有用であると期待される。
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