超高齢社会を迎えた昨今、健康に生きる期間「健康寿命」を延ばす抗老化・抗加齢医学の研究が進められている。この分野から注目されるモデル生物のハダカデバネズミは、実験用マウスの10倍も生きて、”がん”も形成されず、心臓病・動脈硬化・アルツハイマー病の症状も示さない。動物は年齢を重ねるほど死亡率は上がるが、ハダカデバネズミはその法則に逆らう唯一の哺乳類と言われ、老化しないで長生きする健康長寿を実現している。 ハダカデバネズミのゲノム配列は2011年に解読されて、このネズミがもつ遺伝子群は明らかとなった。しかし、ハダカデバネズミの遺伝子群がどのように使われた結果として、老化しない特性が生み出されているのかについては不明な点が多い。そこで、ハダカデバネズミの老化しない特性を生む分子機構を解明するために、本計画研究ではエピジェネティクス機構に着目した。具体的にはエピジェネティクス機構の一つであるDNAメチル化がゲノム全域でどのようにマークされているのかを調べた。 共同研究先から提供されたハダカデバネズミの脳・肝臓・線維芽細胞からDNAを抽出して、全ゲノムバイサルファイト法によりライブラリを作った。続いて、次世代シークエンサーによるシークエンシングを行い、ゲノム全域におけるDNAメチル化の配列データを得た。令和3年度は、その配列データを用いて情報解析を行ない、ハダカデバネズミの各細胞種におけるDNAメチル化のゲノムマップを作成した。これにより、研究が進んでいないハダカデバネズミのエピジェネティクスの一端を明らかにした。続いて、マウスのDNAメチル化のゲノムマップとの比較により、ハダカデバネズミに特異的なDNAメチル化の領域を抽出した。現在、これらの解析データをもとに、ハダカデバネズミの老化しない特性を生む分子機構の一端をエピジェネティクスの点から明らかにすることを目指している。
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