研究課題/領域番号 |
20K20676
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井上 智勝 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (10300972)
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研究分担者 |
松浦 清 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70192333)
岩佐 伸一 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪歴史博物館, 主任学芸員 (70393288)
平川 信幸 沖縄県立芸術大学, 芸術文化研究所, 研究員 (40840715)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 肖像 / 御後絵 / 天神 / 釈奠(釈典)(釈菜) / 儒教祭祀 / 影供 / 人麻呂 / 菅原道真 |
研究実績の概要 |
Zoomを用いて研究会を4回、別途意見交換会を4回開催した。研究会では天神画像、琉球の国王と士大夫層の肖像画、朝鮮における影幀を用いた人霊祭祀の実態と思想的背景等に関する研究報告を持った。意見交換会は、研究会で話題となった像賛・落款印の扱い、影幀を用いた祭祀の場(空間論)などの論点や、今後の研究の方向性などについて自由に議論し合う場とした。当初対面で予定していた研究会よりも多くの回数を開催することができ、対面ならではの濃密さには及ばないものの、研究の現在地や深めるべき論点を全員で共有できた点において、研究の進展を図ることができた。 国内で行える文献調査は昨年度に引き続き、活字化された史料やWeb公開されているものを中心に進め、釈奠や天神(菅原道真)、人麻呂影供に関する記述、『妙法院日記』にみえる関係記事などを集積した。絵画資料については、中華帝国の肖像の書籍・写真データによる収集・共有、および天皇・親王や公家の肖像の写真データ収集・共有を進め、琉球国王尚氏の肖像研究の深化を図ったほか、昨年度に引き続き図録類からの関連図像の抽出・分類を行った。天神画像については、分担者が新たに一本を入手し、その分析に着手した。文献や画像データは昨年度に引き続きクラウドへの集積を進めて充実を図り研究組織内で共有した。 研究成果としては「研究発表」欄に掲げた論稿4本、報告2本のほか、同「備考」欄にあるように博物館での展示や普及記事を通じて市民一般へ研究成果の還元を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」欄に記したように、本年度は一定の研究実績をあげることができた。しかし一方、COVID-19の影響によって研究の進行は昨年度に引き続き阻害された。越南・朝鮮の文献および影幀について、予定していた現地調査はCOVID-19の感染拡大による入国制限によって延期を余儀なくされたため、進展しなかった。これら両国の研究は、現地調査を前提に計画していたもので、2年に亘りそれが果たせなかったことは研究の遅れの大きな原因となっている。国内の資料所蔵機関でも閲覧停止や制限の措置を採るところが少なくなく、刊行物やWeb公開されている資料を中心に収集せざるを得なかった。以上の現状から研究は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、研究の着地点に向かって議論を収束させ、研究成果の発表をしてゆかねばならない最終年度である。しかし「現在までの進捗状況」に記したように、必要な調査はなお遂行し得ておらず、遂行が可能となる時期は予測できない。推進方策は立てにくいが、以下のような方針で、可能な限り所期の目的を達成できるように努めたい。 年度前半には研究会・意見交換会を重ねつつ、引き続き文献・絵画資料の調査を進め、データの蓄積・整備を図る。10~11月にはそれらをもとに、成果の中間報告として研究組織構成員によるパネル発表を行う。この間、あるいはその後、事態が好転した折に海外調査に赴き、資料の欠を補い、最終的なデータ整備にとりかかる。年度末には、海外研究協力者を招聘して国際シンポジウムを開催し、最終的な成果をとりまとめる。また、研究成果は博物館における展示によって一般市民にも還元する。この間、構成員個々の論稿や研究発表による成果報告は随時行い、蓄積したデータの公開についても検討し、著作権等の問題が克服できれば刊行物等の形で社会に還元する。 ただ、海外調査の遂行については、単にCOVID-19の問題だけでなく、新たな問題が生じている。すなわちCOVID-19の流行による便数削減に伴う航空運賃の高騰、円安の進行、韓国入国時の査証免除停止措置とその継続など、海外調査をとりまく状況が課題申請時とは大きく変化している。当初の研究計画は、経費面からも遂行できなくなる可能性を視野に入れなければならない。その場合は、調査方法の見直しや海外研究協力者らとの連携を緊密にすることで、所期の研究目標を達成できるように努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、COVID-19の感染拡大が収束しなかったことである。本研究は、申請時にはCOVID-19の発見以前であり、その世界的流行を予測することはできなかった。交付申請時にも感染拡大がやや収束気味であったため、海外渡航および調査が可能になることを前提に、当初の予定どおり初年度に海外調査を行う計画を立てていた。しかし現在まで渡航が困難な状況が続いている。国内の移動・調査も数次に亘り制限・自粛を求められたため、順延せざるを得なかった。それゆえ、国外・国内旅費ともに殆ど未執行である。同様の理由から海外研究協力者の渡航費・謝金なども未使用のままである。なお、国内での実地調査にも赴きにくいことから、撮影器具などの物品についても、一部購入を見合わせているものがある。 補助事業期間の延長申請が承認されたため、本年度の状況を睨みながら、国内・海外可能なところから調査を開始する所存だが、航空運賃の高騰や円安など、昨年度までとは異なる新たな阻害要因や、韓国における査証免除停止措置の継続など課題申請時にはなかった事態が生じている。調査方法の見直しや海外研究協力者らとの連携を緊密にすることで、所期の研究目標を達成できるように努めたい。
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