研究課題/領域番号 |
20K20684
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
長谷 千代子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (20450207)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 菜食主義 / 仏教 / 中国 / 日本 / 台湾 / 倫理 / 環境主義 |
研究実績の概要 |
・文献研究とネット上の情報調査により、中国の昆明、重慶、上海、北京、香港における菜食レストランの内装と菜食主義的なメッセージを収集し、その内容を菜食に関する学術的政治的言説の変遷と照らし合わせて分析し、国際学会で発表した。学会はEAAA(East Asian Anthropological Association)、オンライン開催で、発表題目は「Vegetarianism and Buddhist Culture: on religious discourse in contemporary China」、発表日は11月28日だった。発表内容に基づいて英語論文を執筆し、現在投稿準備中である。 ・マインドフルネスの推進団体やファスティングを実施している団体と連絡をとり、その参加者に菜食実践についてのアンケートを2回行った。アンケートは30部程度回収し、分析中である。 ・菜食レストラン経営者や、マインドフルネス推進団体等で紹介された菜食実践者など、興味深い事例についてのインタビューを10回程度実施した。現在6人とインタビュー調査を継続中である。 ・学術変革領域研究(A)「水循環サービス概念の構築による水共生学の創生」に研究協力者として参加し、そこで知り合った経済学の専門家と、水環境の変化による生活様式と考え方の変化についての共同研究の可能性を探っている。この研究では水のシンボリズムの観点からの研究協力を期待されている。菜食実践を行う人々へのアンケートやインタビューでは、良い水への高い関心がうかがわれるため、良質の水を求める動機を切り口として、自分の萌芽研究と学術変革領域研究(A)との相乗効果的な研究を目指して構想を練っている。 ・仏教色のある新たな道徳の出現に関する研究の糸口として、菜食実践の他に水子供養および放生活動の事例研究に可能性があると考えるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中国や台湾で調査を行う前提で計画された研究だったので、コロナ禍によって海外調査ができなかったことが大きく影響している。計画内容をほとんど文献調査と日本国内の近場の調査に切り替えて対応しようとしている。また、インタビュー調査を主として行う予定であったが、インタビューを申し込んでも、相手がオンラインに不慣れだったり、顔を合わせて話すことに抵抗があったりして、断られることもあった。 学術変革領域研究(A)に研究協力者として参加することになり、新しい視野が開けた面もあるが、それによって自分の萌芽研究がやや予想外の展開をしている部分もあり、単純に遅れているとか進んでいるなどと言い難い状況である。
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今後の研究の推進方策 |
学術変革領域研究(A)に参加することによって多くの異分野の研究者と交わる機会を得たので、それを生かしたいと考えている。自分の萌芽研究の主眼は、現在新たに現れつつあるポストモダン的な「道徳」にあり、菜食実践はそれについて考えるための一つの手がかりであった。その意味では、水(についての)観念を新たな手がかりとして加えながら、引き続き「道徳」について考察していくことを考えている。具体的には、食の在り方に危機感を持っている人が水の大切さをどう捉えているか、水子(供養)と水イメージの関係性などが、意外に興味深い観点として浮上している。海外調査の実施可能性が見通せないので、こうした観点を取り入れた文献調査と考察に重点を移すことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、海外調査計画がまったく実施できなかった。国内での調査に切り替えて主に福岡県内で調査を行ったが、近距離であるため、出張費が全く発生しなかった。 今後の研究計画としては、一年の期限延長を申請し、今年度か来年度には少なくとも中国雲南省と香港、台湾での現地調査を実施したい。それと同時に、来年度まで十分な現地調査ができないことも想定し、国内での調査と文献調査に基づく理論研究に力を入れる。具体的には、国内で菜食実践の普及に取り組む中国・台湾系の仏教団体や、日本国内の団体、菜食レストランのオーナーなどを中心にインタビュー調査を行う。研究の最大の目的は、時代の変化に伴って現れた新たな道徳の在り方を明らかにすることなので、研究対象を菜食実践だけに絞るのではなく、日本から東アジアに広まる水子供養や、東アジアで盛んになった放生実践も視野に入れて調査を行う。その際、ネオアニミズム論、存在論的人類学、環境主義思想などの理論研究を参照し、現代世界に生きる人々が霊的存在と新たにどのような関係を構築しようとしているのかについて考察する。
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