研究課題/領域番号 |
20K20704
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
竹内 史郎 成城大学, 文芸学部, 准教授 (70455947)
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研究分担者 |
松丸 真大 滋賀大学, 教育学部, 教授 (30379218)
中川 奈津子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 特任助教 (50757870)
小西 いずみ 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60315736)
下地 理則 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (80570621)
林 由華 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 特別研究員(PD) (90744483)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 日琉諸語 / 格 / 文法化 / 格標示 / ハダカ現象 / 格配列 / 脱主題化 |
研究実績の概要 |
本研究課題の主たる目的は、日琉諸語において、格という文法カテゴリーにおける文法化の度合いが多様であることを明らかにすることである。この目的を果たすためには、日琉諸語の格カテゴリーの文法化における手段(格標示、語順、項名詞の意味特徴ほか)が数多くあることをふまえつつ、どの手段(とどの手段)が用いられるのか、手段が複数あるとすればそれらは協働する関係にあるのか、用いられる手段の文法化の度合いはどうなのかといったことを日琉諸語におさまる個別の言語・方言において確かめていくことが重要である。こうした目的をふまえ、今年度の研究実施計画では、無助詞現象が目立つ、あるいはノーマルである言語を主な考察対象とすると述べた。こうした言語においては格カテゴリーを文法化する手段が複数あるという予測が成り立つからである。さて本年度の研究成果の概要は以下の通りである。 9月にはシンポジウムを共同開催し(国立国語研究所シンポジウム「係り結びと格の通方言的・通時的研究」9月19、20日、Web開催)、11月には当科研の研究会を開いた(11月28日、Web開催)。この2つのイベントにおいて当科研メンバー6名のうち5名が研究発表を行ない、無助詞現象が目立つ、あるいはノーマルである言語が研究の対象となった。これらの研究を通して日琉諸語の主語の格標示が情報構造を表し分ける機能を担い得ることが確認されたが、とくに注意されるのは、主語だけを焦点とする場合にも、文全体が聞き手に注目してほしい情報である場合にもガ系の主語標示が現れることである。すべての文に文頭と文末があるように、ほとんどすべての文には主語がある。主語位置のこうした性格をふまえ、2つの用法の歴史的な関係を捉えていくという着想を得たのは重要な成果と思われる。今後、主語の格標示の機能の広がりに関する仮説を導き出すに当たって重要な観点となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ渦の状況にもかかわらず、9月にはシンポジウムを共同開催し(国立国語研究所シンポジウム「係り結びと格の通方言的・通時的研究」2020年9月19、20日、Web開催)、11月には当科研の研究会を開くことができた(2020年11月28日、Web開催)。この2つのイベントにおいて当科研メンバー6名のうち5名が研究発表を行ない、シンポジウムに参加された方々から数多くのご意見、ご批判をいただき、格や情報構造にまつわる数多くの問題を解決する道筋を得た。そしてまた、今後の進展にとって重要な問題が見出された。本研究課題にとって基盤となる言語現象の報告だけでなく、科研のメンバーによる議論から生み出される問題発見の幅も広く、研究プロジェクトの成果としての仮説を提出するための観点も定まりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
主節の格配列のパターンについての考察を進めたい。格配列のパターンの変化の経路として、「有標対格から有標主格対格をへて有標主格へ」という3つの段階を漸次的に進んでいくことを想定することで、すでにわかっている京都方言の主節の格配列のパターンの歴史や日琉諸語における主節の格配列のパターンの分布を説明できる見通しがある。このことを論証すれば波及するところが大きく、こうした課題は日琉諸語の格研究にとって優先順位が高いものである。 またガ系主語標示には、脱主題化(detopicalization)と称される機能のあることがわかっているが、日琉諸語を見渡したとき、従来の脱主題化の定義では説明できない現象が散見される。すなわち、ガの及ばない領域がハダカではなく有形助詞(ノやゾなど)を用いて標示される場合である。現象を適切に説明できるよう脱主題化が何を表すかということを考究していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初予定していたフィールド調査を全く行うことができなかった。これは研究代表者のみならず、研究分担者全員に該当することである。本研究プロジェクトは、国内各地での臨地調査なしには成り立たず、また、当科研費の旅費は貴重な財源である。使途を無理に変更して研究費を使用するよりは、当初の計画を次年度に遅らせて研究を着実に遂行することを優先した。以上が相当の額の次年度使用額が生じた理由である。
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