研究課題/領域番号 |
20K20707
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研究機関 | 名古屋学芸大学 |
研究代表者 |
赤嶺 亜紀 名古屋学芸大学, ヒューマンケア学部, 教授 (20308745)
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研究分担者 |
上宮 愛 立命館大学, 総合心理学部, 助教 (50555232)
仲 真紀子 立命館大学, OIC総合研究機構, 教授 (00172255)
水野 真木子 金城学院大学, 文学部, 教授 (90388687)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 多文化共生 / 日本語話者 / 子どもの司法面接 / 外国語通訳 / 証言の信憑性 |
研究実績の概要 |
1)司法面接の活用をテーマとするワークショップ:上宮は,法と心理学会第22回大会においてワークショップ「公認心理師の専門性における事実確認を目的とした面接スキル:教育・福祉・司法領域に広がる公認心理師による司法面接の活用とその課題」を企画した。司法面接は公認心理師の専門性のひとつとして明示されており,メンタルヘルスの支援・実践においては客観的な事実確認は欠かせないものであることから,司法領域に限らず,教育や福祉領域における司法面接法活用の可能性について仲らと議論した。 2)『子どもの話を聴く 司法面接の科学と技法』の出版:司法面接研究会(代表・仲,上宮,赤嶺が参画)において,Debra A. Poole (2016) の『Interviewing Children: The Science of Conservation in Forensic Contexts』の翻訳書を作成した。この書籍は,司法面接の特長を認知発達の心理学研究の知見に基づいて解説したものであり,邦訳にあたっては,メンバーの心理学の専門性を発揮することができた。2022年6月10日発行予定。 3)『入門 司法・犯罪心理学 理論と現場を学ぶ』の出版:法と心理学会監修の,公認心理師カリキュラムに対応する書籍を作成した。上宮は第Ⅲ部,第11章『サポートが必要な被害者や被疑者への聴取─適切な情報を聴き出すために』を担当し,子どもや精神的,発達的障害をもつ人に対する司法面接と支援について執筆した。赤嶺は第Ⅳ部・支援(被害者および加害者,家族支援)の編集を担当した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1)外国人児童の司法面接に関する実務家へのインタビュー: 水野らは,中部地方の児童相談所職員2名の方から,外国語通訳を介する子どもの司法面接の実際について,オンラインでインタビューを行った。これまでの外国語通訳を介したケースをふり返って,成果を得た点と困難であった点,通訳者に期待する役割等について聴き取った。そして,通訳者のことばづかいによっては,子どもらしさがなく,違和感があったり,子どもの発言の自信の程度等ニュアンスをつかむことが難しかったりすること等,具体的な情報を得ることができた。これらの知見は,研究3「外国語通訳を必要とする日本語弱者の司法面接の提案」に反映させたい。 2)研究1「外国語通訳を介した模擬司法面接」面接者および通訳者のトレーニング:本研究は外国語通訳が子どもの司法面接に及ぼす影響を検討することであるが,そもそも面接者が標準的な司法面接の知識とスキルを備えていなければならない。そのため上宮が,立命館大学総合心理学部および人間科学研究科の学生3名に対して司法面接の講義とロールプレイを指導し,的確に子どもの司法面接をすすめることができるよう,準備した。 外国語通訳を専門に学ぶ学生に対して模擬面接の協力を相談し,面接者と同様に司法面接の研修(オンライン実施も含む)を計画している。 3)外国語通訳を介した子どもの模擬司法面接の再分析:研究2「通訳者の発話スタイルと子どもの証言の信憑性の評価」の刺激映像を作成するために,上宮と赤嶺が2018-2020年に行った模擬面接について,改めて子どもの応答を1文ごとに区切って,発話の種類を再分類した。子どもの応答の内容や語彙,文末の表現,発話の長さを分析し,刺激映像のシナリオを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
1)研究1「外国語通訳を介した模擬司法面接」:面接者として,これまでに上宮の司法面接の研修を受講し,トレーニングを受けた心理学専攻の学生3名から協力の了解を得ている。通訳者は,2017,2018年に徳山大学・羽渕由子先生と上宮,赤嶺らが実施した「通訳介入が必要な外国人を対象とした司法面接ワークショップ」に参加した通訳専門家に依頼する。被面接者の子どもは,愛知県の幼稚園(赤嶺の所属大学の近隣)や金沢市の小学校(上宮の所属大学の近隣)等に協力を要請し,大学の授業期間外(8-9月,2-3月)に実験を行う。 2)研究2「通訳者の発話スタイルと子どもの証言の信憑性の評価」:上宮と赤嶺が2018-2020年に行った外国語通訳を介した子どもの模擬司法面接を再分析し,刺激映像のシナリオを作成する(通訳者が①子どもの年齢相応の表現,②不相応に丁寧な表現,③不自然な幼児語を使用)。面接者役は日本語話者(研究1の面接者),研究協力者のアシューロバが日本語-ウズベク語の通訳者,ウズベク語話者の児童(アシューロバの知人家族)が被面接者を演じる。完成した映像を大学生や教育・福祉の専門職者(保育士・幼稚園教諭)らに提示し,子どもの証言の信憑性について評価を求める。またインターネットを利用した実験・データ収集も検討する。 3)研究3「外国語通訳を必要とする日本語弱者の司法面接ガイドラインの草案と社会実装に向けた検証」:昨年度児童相談所職員2名の方に対して,外国人児童の司法面接の実際についてインタビューを行ったが,同様に司法面接の実務家(上宮や仲の司法面接研修の参加者らに協力を要請)から現状と課題をきく機会を設ける。本研究課題の特徴は心理学と法言語学の背景の異なる研究者が携わっていることである。当面,引き続き移動が制限されると思われるため,オンライン・ミーティングを多く設定し,議論を活発にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19拡大による対面実験の制限:研究1「外国語通訳を介した模擬司法面接」の実験は,大学の授業期間外(8-9月,2-3月)に上宮が名古屋学芸大学へ,または赤嶺が立命館大学へ出張して行う計画であったが,ちょうどその時期に感染拡大が深刻化した(第5波,第6波)。また,11歳以下の児童のワクチン接種は始まっておらず,子どもを含む複数が集合する実験を行うことは適切でないと判断した。 今後の計画:①実験参加者への謝金およびデータ整理の費用:繰り越した予算は当初の計画に従って,実験参加者への謝金と面接データの整理の謝金に充てる。研究1の実験参加者,面接者に対して,上宮が前任校(立命館大学)において研修を行ってきた。今後の実験は名古屋学芸大学(赤嶺の所属)あるいは金沢大学(今年度から上宮の所属)で行うため,これらの参加者の旅費が必要である。 ②COVID-19感染対策の物品購入:研究1の対面実験や研究2の刺激映像の撮影の際に使用する,アクリルパーテーションやマスク,消毒液等の購入に充てる。 ③研究2「通訳者の発話スタイルと子どもの証言の信憑性の評価」の刺激映像の作成:動画の撮影・編集は,映像制作を専攻する学生に協力を求める。その謝金に充てる。
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