コロナ感染症による史料調査の制約が続くなか、研究機関・図書館によっては受入をしてくれる場所が増え、そうした機関での史料調査を進めることができるようになった。依然として韓国での史料調査には制約が強く残ったために実現できなかったが、それ以外のところでの調査には進展があった。 対馬歴史研究センターおよび慶應義塾三田情報センターでは、対馬藩宗家史料の調査が行えた。東京都立中央図書館では特別買上文庫の朝鮮人行列図を熟覧し、デジタル撮影を行った。京都市歴史資料館では寄託史料(淀藩渡辺家史料)に含まれる朝鮮人行列図を、朽木歴史資料館でも寄託史料(横井家史料)に含まれる朝鮮人行列図を熟覧し、デジタル撮影をした。 神戸市立博物館の朝鮮人来朝行列図について、類似した構図をもつ福岡市博、栃木県博のもののほかに、天理大天理図書館のものを新たに画像を入手して比較検討を行った。また、淀藩渡辺家史料なかの朝鮮人行列図を子細に検討することを通じて、記録画として描かれたはずの朝鮮人行列図に様々な虚構が含まれていることを改めて確認できた。さらに、呉市蘭島美術館所蔵の朝鮮通信使行列図の現物を数点にわたって比較検討することを通じて、それら記録画における虚構が決して特殊なものではなく、かなり広範囲にわたって存在することも確認できた。 以上を踏まえて、すでに前年度中に口頭発表した朝鮮人行列図にかかわる考察について再検討を加えた内容を、まず朝鮮通信使ゆかりのまち全国交流集会対馬大会(2023年10月29日)の講演で口頭発表をし、論文「「朝鮮通信使来朝行列図」を読み直す」として整序して発表した。同稿は、細部の詰めを必要とはするものの、黒田日出男とロナルド・トビによって1990年代に提唱された神戸市博本「朝鮮通信使行列図」は祭礼図だとする見解を根底から覆す研究成果となった。
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