本研究は,緑青から炭素を二酸化炭素の形で抽出する調製法を開発することを第一の目的とした.また,その上で従来は不可能とされてきた青銅器の14C年代測定法の有効性を実証することを第二の目的とした.緑青を試料とした14C年代測定法の開発を目的として,本研究では,「短時間の反応で,外界からの炭素混入の影響なく,緑青からCO2を放出する」という三条件を満たす緑青の分解温度を求めた.その結果,真空中において250℃以下,1時間の加熱により,CO2を得ることが可能であるとの結果を得た.しかし,測定例が蓄積される中で,250℃以下の低温加熱では,正確度の高い年代が得られるものの,CO2の回収量が低くなる例が確認されるようになった.一方,300℃以上では高収率となるものの,土壌など不純物の炭素汚を受け,正確な年代測定が不可能であることが判明した.そこで,250℃以下の加熱では低収率となる問題に対しては,従来のグラファイト化法に代わるものとして,近年開発されつつある,より少量での測定が可能であるセメンタイト化法に着目した.この手法の適用可能性を示すため,同一の試料についてグラファイト化・セメンタイト化を行い,各々の14C年代を測定した.その結果,後者の方法で得られる14C年代値は,測定精度が低下することがあることが示された. また,常温の真空中において,緑青を リン酸と反応させることで,有機物の分解なくCO2を放出させる手法の改良についても実施した.しかし,CaCO3と考えられる不純物の分離が困難であり,この調製法では正確度の高い14C年代が得られれないことが示された.さらに,加熱分解法により,考古学的年代の既知である青銅器の緑青についての測定事例を蓄積した.これは何例目をもって実証されたといえるものはないが,第二の研究目的である青銅器に対する14C年代測定法の有効性も示されたといえる.
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