研究課題/領域番号 |
20K20724
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 正志 静岡大学, 教育学部, 准教授 (00599912)
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研究分担者 |
瀬川 直樹 宮崎大学, 地域資源創成学部, 准教授 (80883248)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 旧産業地域(OIA) / 地域政策 / 産業集積 / 製紙業 / セルロースナノファイバー |
研究実績の概要 |
本年度は、大きく旧産業地域再生にかかる地域政策の理論的検討とその実証研究、および製紙業の変化にかかるデータ入力・分析を中心に実施した。 まず、旧産業地域再生にかかる地域政策に関しては、進化経済地理学における経路依存性概念とその解放の困難性にかかる検討、および地域政策における空間的範囲に関する検討を中心に実施し、都道府県と市町村間の連携といった広域化の可能性についての議論の枠組みを検討した。その上で、経路依存性から脱却することの困難性に関する議論と実証可能性を検討した。また、合わせて実証研究では製紙業の集積がみられる富士市での産業支援策について、特にCNFの事業化と製紙業の再編にかかる調査検討を実施した。その結果、特に富士市では製紙業の衰退以降、製紙業を対象とした産業再生策については有効な施策を打ち出せていない。一方で、CNFでは県との連携や、公設試験研究機関との事業研究などの実施といった側面の連携を図りつつ事業化を進めるという、より広域的かつ自治体間の多層的な対応が取られていることが示された。 次にデータ分析に関して、製紙業ならびに関連産業の立地変動を把握するため、富士地域、四国中央地域における当該業種に該当する事業所のデータベース作成に取り組んだ。具体的には日刊紙業通信社刊『紙業興信大鑑』の1991年度版、2000年度版、2009年度版、2019年度版掲載の事業所情報、製紙業については立地住所、従業員数、業種、生産品目、生産量、生産設備の詳細な内訳、原材料別主要仕入れ先、関連産業については立地住所、業種、資本金、従業員数、年商、主要仕入れ先、納入先のデータについて入力作業を実施した。現在、分析の中途状況であるが、各地域では製紙業者や関連業者の減少が進む一方、残存する企業では、企業規模の拡大や生産品の現代化が進んでいることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は、製紙業の産業集積地域における自治体や公設試験研究機関、製紙業および関連産業の企業などへの聞取り調査の実施、および製紙業関連のデータベース構築の完了予定であった。しかし、コロナウィルスの流行拡大とそれに伴う移動の制限や調査先の応対の困難さ、謝金を支払う資料整理の人員確保の困難さなどの理由により、集中的に調査が実施できる時期に対応が難しい状況にあった。そのため、当初先行して実施する予定であった、産業集積地域の実態調査が現状ほとんど実施できていない状況にあり、データ分析や文献整理などを中心に実施せざるを得ない状況にあった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、特に製紙業の産業集積地域における聞取り調査や産業関連の統計分析を軸にして、紙・パルプ市場の縮小の見通しのなかで、主要工場の生産縮小に伴う地域経済の構造転換の内実を実証する研究を実施する。具体的には、静岡県富士地域(富士市およびその周辺地域)および愛媛県四国中央地域(四国中央市およびその周辺)における製紙業とその関連業種を対象にして聞取りの実施を進める。具体的な調査として、特に企業に対してはこの20年程度の製品の移り変わり、取引先の変化とその理由、技術や市場動向の参照先、国や地方自治体、公設試験研究機関などが準備する政策的支援体制などの利用状況とその評価、などを中心にした比較可能な形での横断的な調査を実施する。また、地方自治体や公設試験研究機関に対しては、研究開発や販路解体区などに対する支援策やその財政投資、およそその効果や製品化への難しさなどにかかる聞取りを実施する。 また、構築中途のデータベースについても、入力作業とともに分析を進め、製紙業の産業集積地域における企業の変容と産業構造の変化についても、合わせて検討する。 これらの実証研究を進めたうえで、本年度までに実施した旧産業地域にかかる進化経済地理学的な検討やその再生にむけた地域政策に関する理論的な動き、およびデータベースに関する蓄積と照合して、構造的な産業衰退が進む産業集積地域の再生にかかる展望を検討する。 これらの実証研究や理論的検討を踏まえて、製紙業地域における経路依存性からの脱却の困難さを生じる要因と、その解決に要する政策的な対応のあり方についての議論を深めた、本研究の取りまとめを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、新型コロナウィルスの流行の継続・拡大を要因として、現地での聞取り調査や資料収集等を含めた現地調査がほとんど実施できず、また学会時の報告や打ち合わせ等も実施できなかったため、当初見込んでいた出張の旅費出費がほとんど実施できなかった。また、同じ理由によりデータ入力の人手が確保できず、当初予定していた謝金業務が当初予定していた額よりも少額にとどまった。 次年度使用額では、本年度実施できなかった製紙業の産業集積地域の現地調査にかかる旅費および学会等での報告に関わる調査旅費、並びにデータベース構築のための謝金費用に継続して充当するとともに、その成果の一部を英語文献として刊行するための、英文校閲等の費目(その他の費目に該当)に充当する形で使用を行う。
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