研究課題/領域番号 |
20K20726
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
隈元 崇 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (60285096)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 地形分類 / AIの機械学習 / 喜界島の海成段丘面 / 地形変化シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では,人工知能(AI: artificial intelligence)の技術を地形学の分野で応用・活用することを目的としている.そこでは,主に専門家の経験と判断に基づいて作成されてきた地形分類と地形面区分図をAIの技術で判断できるか否かの試算検討をテーマとして設定した.その中では,高解像度のデジタル標高モデルに対するAIの機械学習に基づく地形分類結果の精度検証を目指している.この中での具体的作業課題として, AIの学習用に大量に必要となる教師データについて,それらを専門家作成による既存の地形面区分図からのみ取得するのではなく,計算機を用いた過去から現在への地形変化シミュレーションを別途行ってその計算結果を補完データとすることでAIの評価関数の学習精度の向上を図る.またその際,地形変化シミュレーションの重要な初期条件の地形については,年代を含む形成プロセスが先行研究によって明らかとされている火砕流堆積域や隆起サンゴ礁段丘を対象として初期地形の不確実さを減少させ,シミュレーションと現実地形や対象期間が乖離しないことに留意する.研究2年目(令和3年度)は,初年度の火砕流堆積面を開析する鹿児島県・薩摩半島に続き,鹿児島県・喜界島の隆起サンゴ礁の段丘面を対象とする初期地形データの作成と,従来のC言語プログラムから統計解析ソフトRおよびPythonのスクリプトで再構築したシミュレーションツールの開発を行った.その結果,最終間氷期以降の間欠的な地殻変動をモデル化した喜界島の段丘面の再現について現実の地形に整合的な結果を得た.その結果を,AIとして条件付き敵対的生成ネットワークのpix2pixを用いた.しかし,傾斜の緩やかな地形の区分結果は十分ではなく,その原因の考察と他のAIアルゴリズムの追加選定を推敲中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年計画の2年目の研究では,最終間氷期以降の約13万年の期間にわたる10mスケールの地形発達シミュレーター(LEMs)の開発・検証・実行を,初年度の初期地形の不確実性を考慮するための火砕流堆積面を開析する鹿児島県・薩摩半島の精度向上と,海食による海成段丘面の発達に絞った地形形成作用の不確実性の考慮を目的とする鹿児島県・喜界島を新たな対象として陸域および浅海域の測量作業も含めて計画していた. このために,すでに所持してたドローンを用いた低高度の空中写真撮影と3次元処理技術に加えて,本科研費からの支出により浅海域の水深を計測可能な水中ドローンを購入して,シミュレーションの初期地形の精度向上を目指す作業予定であった.特に,海進期の海底削剥と海食崖の後退への寄与の大きな浅海域の水深計測と地形の把握は重要と考えていた. しかし,2020年3月以降の新型コロナへの対応・制限のため,学生を謝金で雇用して行う計画であった野外測量が実施できなかったこと,また,大学の夏季休業中の活動制限レベル設定のために喜界島への出張作業が実施できなかった.このことにより,開発を進めているシミュレータへの詳細地形データの整備が遅れており,AI評価も既存のデータ利用にとどまっている.この遅れについては,研究最終年度3年目の新型コロナへの対応・制限をみながら,研究計画を再考する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の作業では,地形分類と地形面区分図のためのAIの選択として,汎用性の高い画像生成アルゴリズムであり,問題ごとにネットワークを設計する必要がないpix2pixを用いた(Phillip et al., 2016).しかし,計算を進める上でやや汎用性に欠くパラメータ設定が必要であったことから,AIの選択を再考して前年度の計算結果の検証を行うこととしていた.そこで,研究2年目では,AI選択の前に古典的な統計区分手法である多変量解析を参照・参考結果として,AIの選択にはサポートベクタマシンや多層ニューラルネットワークなど,画像としての連担性を考慮しない手法も用いて比較した. ただし,上記「7.現在までの進捗状況」にも記載したとおり,計算に用いているデジタル標高データの解像度がまだ十分ではないことが原因であると考えているが,特に低地において,期待するようなAIの地形区分の結果を得られていない. そこで,引き続き,地形データの解像度に留意しながら,より精度の高い地形区分が得られるAIの選択と地形変化シミュレータの結果からのAI学習およびパラメータの調整を行う..また,地形変化のシミュレータの計算結果向上のための現地作業について,特に海岸線から浅海域にかけての測量作業を新型コロナへの対応・制限をみながら,研究計画に則った実施を目指す.ただし,実施できない場合の代替手段として野外調査に関する研究計画を再考し,地形区分の分類数との感度解析などからAIの精度を検証する新たな考え方の導入も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
上記「7.現在までの進捗状況」にも記載したとおり,喜界島における過去約13万年間の地形変化をシミュレータで再現するための現地測量作業について,当初予定していた夏季休業中の作業が,研究2年目の2021年度も新型コロナに対する大学の活動制限レベル制限のため実施できなかった.このため,研究費の支出計画の中で旅費と謝金として計上していた分の執行もできていない.初年度からの2か年の野外作業の遅れについては,今年度の新型コロナへの対応・制限をみながら実施を計画する.他方,大学の活動制限レベルによっては野外調査に関する研究計画を再考し,地形区分の分類数との感度解析などからAIの精度を検証する新たな考え方の導入も検討する.
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