本研究の目的は,従来は専門家の経験と判断に基づいていた地形分類と地形面区分図の作成を,高解像度のデジタル標高モデルとAI(artificial intelligence:人工知能)の機械学習を用いて実施し,その課題の洗い出しと精度検証を行うことである.そのために, AIの学習用に大量に必要となる教師データについて計算機を用いた地形変化シミュレーションの計算結果を利用,地形変化シミュレーションの重要な初期条件となる過去の地形について検討,の2点を課題として実施計画を立てて作業を遂行した. 昨年度までの知見に基づき,本年度は鹿児島県・喜界島の海成段丘地形を対象に作業を行った.この選定理由は,結果の検証が容易な海成段丘地形が発達していることと,第四紀後期における隆起速度が大きく,地形変化パラメータの変動が計算結果に対し非線形に影響するシミュレータの検討に適していると判断したからである. シミュレーションの初期地形については,別途共同で研究を行った日本海・秋田県沖での海底地形の地史考察の経験と結果を活かして,現在の海底地形に対する未来13万年間の地殻変動を30パターンで計算し,その影響と不確かさを取り入れた.それをもとに,AIの学習用の特徴量と教師のラベルについて約300万通りのデータセットを作成した.取得したデータの8割をニューラルネットワークモデルに学習させ,残り2割のデータを使用して地形区分AIの学習精度を検証したところ,検証データに対する正解率は90%となった. 最後に,本研究のAIの汎用性の確認のため,高知県室戸半島の地形区分図を作成した結果,喜界島の学習データセットに含まれていない河川作用に関する地形の判別は十分とは言えないが,海成段丘地形に関しては従来の専門家の地形区分と整合的な地形区分図を取得することができた.
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