研究実績の概要 |
本研究は,自然環境条件と人と森林との係りの歴史的背景が異なる4つの地域(北海道足寄町:冷温帯落葉広葉樹林,宮崎県椎葉村:中間温帯性針広混交林,福岡県篠栗町:暖温帯性常緑広葉樹林,中華人民共和国チワン族自治区:亜熱帯性常緑広葉樹林)を対象に,各地域における伝統的利用樹種の用途とその特性を調査し,それらの樹種の諸特性を木材組織学・木材物理学的に評価し,伝統的な木材利用の民俗知に自然科学的妥当性を付与することを目的にしている. 本年度は,2020年度に九州大学農学部附属演習林宮崎演習林で採取した低木種試料の木材組織・構造観察や物理的・力学的特性の計測と解析を引き続き行った.また,同福岡演習林および同北海道演習林の周辺地域で伝統的な利用がなされてきたとされる低木種および高木種のうち計3種9個体をそれぞれの演習林から試料を採取し, 2021年度の試料とあわせて,木材組織・構造の観察および物理的・力学的特性の計測を行った.今年度も中華人民共和国チワン族自治区を対象にした調査は,コロナ感染症の影響等により実施できなかった.代わりにかつて九州帝国大学が所有していた朝鮮演習林(現大韓民国慶尚南道:冷温帯落葉広葉樹林)の樹種リストを整理するとともに当時の樹種別利用方法を文献資料で収集し,データベース化した.さらに,北海道足寄町在住の年代の異なる林業従事者4名に対し伝統的木材利用に関するインタビューを行った.以上、まだ実験・調査結果は解析中ではあるが,亜熱帯性広葉樹林地域以外の各地における伝統的な木材利用と木材の基本的性質との係わりに関する知見が得られつつある. なお,本研究で得られた成果の一部として,伝統的利用がなされてきたモウソウチクの稈齢による材質変動について生理学および組織学の観点から考察し学会発表を行った.また,木材科学の関連雑誌に3樹種に関する解説文を執筆し公表した.
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