近年,地方への移住者の増加とともに,田園回帰の議論が注目を集めている。若手移住者による多様な形態の創業が報告されているが,移住者による創業の地域的条件や地域構造との関連など,未だ不明確な点が多く残されている。本研究は,地方の農村地域において,移住者による創業がいかになされるのか,その際にいかに地域内外の諸要素との連関を取り結んでいるかを,創業者の学習過程と空間的行動に着目して解明しようとするものである。 本年度はまず熊本県内の自治体ウェブサイトや公表資料等で紹介されている移住者のデータベースを作成し,県内で合計146名の移住者を確認した。このうち少なくとも48名が創業者であることが判明し,なかでも南阿蘇村8名,阿蘇市5名,人吉市5名,菊池市5名など,その地域的分布の傾向を明らかにした。加えて,県内各自治体の移住促進政策についても把握し,移住操業者が多い自治体では移住者(または移住者以外も含む)に対する創業支援のための方策も充実していることが明らかになった。 また移住者が地場産業に従事する状況に関連して,熊本県の天草陶磁器産地と小代焼産地における担い手の実態把握を進めた。両産地とも,各窯元が独自色を発揮し,多様な技術が導入され個性的なものづくりを行っており,各窯元の特徴に応じて様々な販売方法も展開されていた。従事者は陶磁器業を,自己実現を図ることができる仕事として認識している様子がうかがえた。伝統工芸を「なりわい」の視点で捉えることの有効性が確認できた。
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