本研究は、近・現代台湾における(広義の)西洋クラシック音楽の受容と社会構造、そしてそれらと人々のアイデンティティとの関係について、とくに2つのテーマ(①台湾社会における「多様性」と「表演芸術」、②〈芸術〉と〈大衆文化〉との接触領域)を焦点として文化人類学と歴史研究の両面からアプローチすることを目的に掲げてきた。当初計画の2年間は新型コロナウイルス感染症拡大のため台湾に渡航しての研究は不可能となり、ようやく現地調査を開始することができたのは期間延長1年目の2022年9月からであった。このとき招聘してくれた国家交響楽団(NSO)の活動については継続的な考察対象とし、2023年度は来日公演(5月)、2022/23シーズン閉幕のセミ・ステージ形式オペラ(7月)、2023/24シーズン開幕公演(9月)、台湾出身の作曲家・江文也の作品を集めたコンサート(10月)、台中国家歌劇院でのオペラ(12月)、歳末コンサート(同)を視察。また、②のテーマに関連して、10月には国慶日の関連イベント(日本やアメリカから招聘されたマーチングバンドや伝統芸能のパフォーマンスを含む)を高雄と台北で、12月には台湾5か所を巡演する3年計画のパフォーマンス《默島進行曲》の第1回目を埔里で視察した。 2022年度から比較研究の対象に含めている国内の関連テーマについては、南大東島出身のオペラ演出家・粟國安彦の生涯と日本・沖縄のオペラ上演史に関する調査と並行して、4月から『沖縄タイムス』紙上で「オペラ開拓 ―粟國安彦と沖縄―」を連載している(2024年3月末時点で18回)。連載は当初単年度の計画であったが2024年度末まで延長して現在も執筆継続中。さらに国外でも香港(6月)、シンガポール(7月)、ベトナム(9月)でオペラを視察した。なお、国内外で視察した公演の一部については音楽専門誌に批評を寄稿した。
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