2020年夏から始まった研究であるため、COVID19による渡航制限や緊急事態宣言によりヨーロッパでの調査は全体的に遅れていたが、2023年度に1年延長したことによって、研究分担者の内藤がトルコにおける大統領選挙の前後に現地に滞在することができた。その成果は、一冊の本と招待講演を含む4本の発表に繋げることができた。具体的には、エルドアン政権になってからのトルコが、EUや周辺国との関係を見直し、新たな国際的プレゼンスを獲得したこと、また強権的と見られることも多い大統領が民主主義的な選挙でえらばれる背景に西欧近代の思想的限界と市民によるそれへの不信があることを示した。 研究代表者の荒又は、研究協力者の三浦尚子さんと義澤幸恵さんの調査協力により、日本におけるクルド移民とオランダにおけるトルコ移民についての知見を広げることができた。そこから、必要なのは非正規移民の人権保護であることを痛感し、まずはヨーロッパにおける現状を地理学的な研究動向とつなげる研究を行い、最終的に論文にまとめた。そこでは、EUやFRONTEXのような排除的な仕組みが生まれる一方、欧州評議会や欧州人権裁判所のように、その動きをとめようとする組織的な運動があることも同じくらい重視すべきものとして見えてきた。いずれにせよ、各国の利害にとどまっているときには、解決策を見い出すことは困難でもあり、日本に置き換えたときの課題も大きい。また、パリに一時期設置された移民の緊急的な受け入れ施設について、イダルゴ市長の両義的な立場も整理し、地理学として取り組む観点も導き出すことができた。字数制限の問題から、具体的には最終報告書でまとめたい。 いずれにせよ、1年間の延長により、当初考えていた最低ラインの調査を行うことができ、成果として発表することができたと考えている。
|