研究課題/領域番号 |
20K20737
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研究機関 | 四天王寺大学 |
研究代表者 |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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研究分担者 |
岩谷 洋史 姫路獨協大学, 人間社会学群, 講師 (00508872)
伊地知 紀子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40332829)
白石 壮一郎 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (80512243)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | らい予防法 / 史資料のデジタル化 / 社会性公共性をもつ史資料 / 個人情報保護 / アーカイヴ・ルール確立 / プラットフォーム構築 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①ハンセン病元患者、ハンセン病療養所入所者たちの生の軌跡を、療養所に保存されているデータのデジタル・アーカイヴ作業をとおして若い世代と共有すること、②個人情報保護の観点から、質的データの公共性・社会性をいかに実現するかを模索し、アーカイヴ・ルールの確立とアーカイヴ・システムの設立を試みることである。 8月1日採択決定後、研究チームと研究協力者の松丘保養園社会交流会館学芸員とzoomミーティングを開催した。COVID-19感染症流行のため、当初予定していた松丘保養園訪問および済州四・三研究所とアウシュビッツ博物館の現地での交流が不可能となり、研究課題遂行の方法の変更可能性を継続的に話し合うことを確認した。 2020年10月に四天王寺大学、同年12月に松丘保養園に研究倫理審査を申請し、それぞれ12月に承認され、研究準備が整った。とりわけ12月25日の松丘保養園のzoomによる研究倫理委員会では、園長、事務長、入所者自治会長らのステイクホルダーが参加する場において、アーカイヴ・ルールの確立とアーカイヴ・システムの設立を企図する本研究の重要性と意義を説明することができた。 デジタル・アーカイヴをとおしてハンセン病にかかわる経験を若い世代と共有する試みは、弘前大学で実施した。具体的には、デジタル・アーカイヴ化された松丘保養園機関誌『甲田の裾』、そこに掲載された短歌の解読をとおして、ハンセン病にかかわる歴史的社会的背景と入所者たちの日常生活を社会学的想像力により描きだした。1年かけて実施した社会調査実習は、調査報告書『短歌から読み解く療養所の生ー機関誌「甲田の裾」と松丘保養園』へと2021年3月に結実した。若い世代が、入所者たちの生の軌跡を学び、自らの生と交差させることができ、本課題遂行において重要な意義をもっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が遅れている理由は3つある。①COVID-19感染症流行のため、採択時期が遅れて研究開始が8月以降となったことである。②同感染症流行のため、当初予定していた松丘保養園訪問ができないこと、③記憶のアーカイヴ化を行う済州四・三研究所とアウシュビッツ博物館の現地での交流が不可能になったことである。 現在は、文献収集および電話による交流そしてzoom等による研究会は実施しつつ、研究課題をいかに達成することができるのかを話し合いながら、実施方法の変更を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、以下の4つの課題を3年間で遂行する予定であった。①歴史的なできごとをアーカイヴし、次世代へ継承を試みる3つのミュージアム(済州四・三研究所、アウシュビッツ博物館、キガリ虐殺祈念館)と交流し、その思想と継承方法を学ぶ。②社会交流会館・学芸員と弘前大学(白石)が中心となり、社会調査実習を履修する大学生たちと共に歴史資料の整理を実施する。③『患者異動日誌』『患者収容書類』『本籍別患者名簿』『死亡患者名簿』『患者カード』『納骨名簿』『死亡届け綴』など過去の台帳の確認作業をし、デジタル・データ化する。④現在の入所者の語りについて、聞き手、聞き取り状況、聞き手のコメントを聞き取り順に記入できるソフトを開発する。 2021年度については、①は、COVID-19感染症流行のため、現地を訪問する代わりに、済州四・三研究所とアウシュビッツ博物館に関係する研究者などに招聘を依頼し、zoomによるミーティングおよび研究会を開催して、目的を達成したいと考えている。②は、2020年度に続いて2021年度も弘前大学人文社会科学部の社会調査実習という形式で実施を開始している。③は、松丘保養園社会交流会館・学芸員が中心となり、過去の台帳の確認作業を、事務局等と連絡調整しつつ、実施する予定である。また、デジタル・データ化するために草書体を解読できる人員をアルバイト雇用する予定である。④は、松丘保養園内でのデータであり、本研究チームが介入の可否について話し合いを続ける必要がある。また、本研究課題の研究成果公開のために、田原と岩谷により開設したホームページの更新を継続的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた状況は、2020年度訪問予定であった済州四・三研究所、アウシュビッツ博物館への渡航が、COVID-19感染症の流行により実施できなかったためである。 次年度分として請求した助成金と合わせて、2021年度可能であれば訪問を実施したいと考えている。また困難な場合、2022年度に旅費を持ちこすことも視野に入れつつ、デジタル・アーカイヴ化の作業を進めるために、草書体を判読できる人のアルバイト雇用およびデジタル・アーカイヴ化のための環境整備を行う。
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