研究課題/領域番号 |
20K20737
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研究機関 | 四天王寺大学 |
研究代表者 |
田原 範子 四天王寺大学, 人文社会学部, 教授 (70310711)
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研究分担者 |
岩谷 洋史 姫路獨協大学, 人間社会学群, 講師 (00508872)
伊地知 紀子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40332829)
白石 壮一郎 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (80512243)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | らい予防法 / 史資料のデジタル化 / 社会性公共性をもつ史資料 / 個人情報保護 / アーカイヴ・ルール確立 / プラットフォーム構築 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①ハンセン病療養所入所者たちの生の軌跡を、療養所に保存されているデータのデジタル・アーカイヴ作業をとおして若い世代と共有すること、②個人情報保護の観点から、質的データの公共性・社会性をいかに実現するかを、虐殺等の歴史的経験をアーカイヴする三つのミュージアムと交流し、その思想と継承方法を学び、アーカイヴ・ルールの確立とアーカイヴ・システムの設立を試みることである。研究会は2021年4月30日・5月28日、2022年3月8日にオンラインで実施した。 COVID-19感染症流行のため済州四三研究所への訪問は断念し、2021年6月17日、高誠晩氏(国立済州大学校・社会学部)を講師とするオンライン研究会を実施した。本研究班と松丘保養園職員と大阪市立大学・弘前大学の学生たちが参加した。 講演をとおして、済州四・三研究所では、事件の社会的政治的背景を研究しながら、犠牲者たちの慰霊祭・遺骨発掘などにより事件の歴史的意味を次世代に継承していること、「済州四三平和公園」を中心に次世代への記憶の継承が行われていることを学んだ。被害回復のために使われる名前(療養所では園名)、政権によって異なる被害者の定義など、事件の複雑性と被害回復の重要性を学んだ。 ①について、研究分担者白石がデジタル・アーカイヴ化された松丘保養園機関誌『甲田の裾』の短歌を弘前大学の学生と共に解読し、入所者たちの生を継承するという重要な課題を遂行した。 自治会資料のアーカイヴ化のためにスキャナ「富士通scan snap」を購入し、共有できる内容と範囲について、自治会役員たちと相談を進めている。患者カードのアーカイヴ化については、研究分担者岩谷が、紙媒体をデジタル化した上でデータベース化するための作成方法を提案した。松丘保養園の自治会資料については、研究協力者澤田学芸員がエクセルによるデジタル化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究がやや遅れている理由として、①COVID-19感染症流行のため、当初予定していた松丘保養園訪問が不可能となり、アーカイヴ化するべき資料へのアクセスが困難なこと、②記憶のアーカイヴ化を行う博物館との現地における交流が不可能になったことがあげられる。 現在は、オンラインによる研究会を実施しつつ、自治会役員とは電話による交流を実施しつつ、研究課題をいかに達成することができるのかを話し合いながら、実施方法の変更を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、以下の4つの課題を3年間で遂行する予定であった。①歴史的なできごとをアーカイヴし、次世代へ継承を試みる3つのミュージアム(済州四・三研究所、アウシュビッツ博物館、キガリ虐殺祈念館)と交流し、その思想と継承方法を学ぶ。②社会交流会館・学芸員(澤田)と弘前大学(白石)が中心となり、社会調査実習を履修する大学生たちと共に歴史資料の整理を実施する。③『患者異動日誌』『患者収容書類』『本籍別患者名簿』『死亡患者名簿』『患者カード』『納骨名簿』『死亡届け綴』など過去の台帳の確認作業をし、デジタル・データ化する。④現在の入所者の語りについて、聞き手、聞き取り状況、聞き手のコメントを聞き取り順に記入できるソフトを開発する。 2022年度は、①については、オンラインによるミーティングおよび研究会を開催しつつ、COVID-19感染症の流行状況を鑑みながらアウシュビッツ博物館への訪問を検討する。②については、過去二年間で実施した短歌の解読にかかわる資料を整理する。③については、社会交流会館・学芸員(澤田)が中心となり、事務局等と連絡調整を実施している。デジタル・データ化するために草書体を解読できる人員をアルバイト雇用を検討している。④については、本研究チームの介入が可能であれば、松丘保養園で実施している「語り聞くノート」の運用について情報共有を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた状況は、2020年度訪問予定であった済州四・三研究所、アウシュビッツ博物館への渡航が、COVID-19感染症の流行により実施できなかったためである。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、2022年度可能であれば訪問を実施したいと考えている。また困難な場合、デジタル・アーカイヴ化の作業を進めるためのアルバイト雇用およびデジタル・アーカイヴ化のための環境整備の充実を実施したいと考えている。
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