今年度は、前年度に海外で調査・収集した資料とこれまでに収集した文献を用いて、検討の深化を図った。前年度にベルリンの連邦文書館(リヒターフェルデ)で収集した、第一次大戦前ドイツの東アフリカ植民地(タンガニーカ)関係資料について、とりわけ当時の植民地行政官が担当管区内の現地慣習をまとめた報告書を分析し、他の慣習調査報告とも突き合わせながら、現地の法状態の把握につとめた。また、電子化されて公開されている連邦文書館所蔵のドイツ外務省植民地局文書についても関係資料を調査し、この点では文書館訪問を代替することができた。これらの第一次大戦前の資料と第一次大戦後にドイツの法学者たちによって編集された植民地法文献との比較対照も進め、記録主体や段階による差異を細かく検討した。 現地慣習法の調査や植民地法の形成にとってベースとなった19世紀後半から20世紀初めのドイツ法学についても、慣習法調査に中心的な役割を果たしたヨーゼフ・コーラーを主な対象として研究を続行した。法、法典、法学に関する彼の基本的思考をたどり、法律家の役割に関する彼の見方にも留意して、植民地の慣習に関する彼のスタンスを、より広い文脈で理解することにつとめた。 方法的には、西洋古代・中世史の「部族」集団の生成をめぐる近時の議論をフォローして、ドイツ植民地内の部族集団と慣習を理解するための示唆を得ようとした。古代末期から中世初期の「部族」集団の生成において法や慣習に帰せられる役割をめぐる欧米学界の議論は、ドイツの植民地支配下の現地民集団の状況を考えるうえでも、参考になるものであった。年度末に来日したヴァルター・ポール(ヴィーン大学)・ヘルムート・ライミッツ(プリンストン大学)という、この分野で指導的な研究者たちと意見交換する機会を得たことも本研究にとって有用であった。
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