研究課題/領域番号 |
20K20745
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
建石 真公子 法政大学, 法学部, 教授 (20308795)
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研究分担者 |
中塚 幹也 岡山大学, 保健学研究科, 教授 (40273990)
來田 享子 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (40350946)
石井 哲也 北海道大学, 安全衛生本部, 教授 (40722145)
土屋 仁美 金沢星稜大学, 経済学部, 講師 (80727040)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム編集と法規制 / 生命への医学の介入と法 / 個人の自律と個人および人間の尊厳 / オリンピズムとSOGI / 健康権 / GIDと産婦人科臨床 / 生殖医療における個人の自律と人間の尊厳 / ヒト胚の研究 |
研究実績の概要 |
本課題は、2020年8月に採択されたため2020年度の研究期間は実質半年であった。コロナ禍のため研究会の開催は難しく、各研究者は個別に取り組むこととなった。研究課題は「ヒト胚への医学的介入の法ルール確立」に関する共通理解の可能性について、国際人権法、生命倫理、医学、スポーツ科学という人と社会の双方に関わる諸科学間で、知の「相互翻訳」を検討し、ヒト胚をめぐる科学知の融合理論への道筋を提示することである。アプローチとして、1.生命への介入に関する生命倫理及び人権理論、2.ゲノム編集をめぐる科学と社会との対話、3.スポーツ分野における身体科学と社会の対話としてオリンピズムにおけるSOGIの位置づけ、4.産婦人科臨床におけるSOGIに関する患者と社会との対話、5.健康権の観点から食品分野における公的基準と民間基準の5ルートからの検討を行った。2020年度の実績の概要は、第1に、総合的に、生命権、健康権研究の面で、受精や胚の選択・移植、また性別の選択や健康の在り方が様々な選択の可能性を拡げ「個人の自律性」という根拠によってその選択を進展させ、正当化しており、個人の選択が優先する点が懸念されること、第2に、「ヒト胚へのゲノム編集」に関する法確立に関する比較法的な研究から、法確立に関わる要因が多様であること、第3に、そのような多様な状況の中で、「ヒト胚の医学的介入」における「個人の自律性」の危険性に関して、どのような観点、立場から評価するかが問われること、第4に、その評価をどのようなプロセスで行うか、民主主義か司法による規範解釈か、なども,国によって異なること,第5に、「ヒト胚」を含めた生命や性に対する医学の介入に対して、法的な規制の取り組んでいるヨーロッパ諸国やフランスの例では、法制度と社会的な運動、政治的なプロセス、司法判断とが絡み合いつつ進展したこと、等が明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、計画していた研究の進捗は、相互の研究成果を融合しつつ進めて行く構想だった。しかし課題が採択されたのが,2020年8月と予告されていた公布日よりも遅くなった点、次にコロナ禍で研究会を十全に実施できなかったことを理由として、相互の研究を有機的に関連づけることが難しいため、各研究メンバーの課題に基づいてその課題を深めることに専念した。結果として、各課題に関する個別研究の進展は当初の計画通りである。一方、相互の研究成果を有機的に融合させていく点に関しては、2021年度にさらに速度を上げて取り組むことが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、2年間の本研究の最終年度となるため、「ヒト胚への医学的介入の法ルール確立における人権論と科学的知見の融合理論の可能性」に関して、研究出発時点での仮説「有機的研究によって融合理論の道筋を示すことができる」に関して一定の結論を出すことが目的となる。研究推進は、次の5つの方向を考えている。第1に、他国との比較アプローチである。これまでの研究からは、ヒト胚の扱いは国によって多様であり、出生前の人間の生命に対する倫理観がまちまちであることや、生殖医療に関する知識の不足等から、一致した法的なルールが存在しない事が判明した。その点に関して、各国における異なった法形成となる要因を抽出することで、何が法形成、あるいは、法が存在しない要因を明らかにしていく。第2に、「ヒト胚に対する研究」に関する国際的な人権基準の検討である。現在では、科学研究や生殖医療は、国際的なツーリズムによって行われる実態も明らかになっている。そのため国際的な人権保護における「ヒト胚への介入」に関する法準則を検討することが必要となる。第3に、個別分野におけるヒト胚やヒトの出生、セクシュアリティに関する研究の動向を、法(法的ルール)形成と言う観点から検討し、融合理論の可能性を検討する事である。第4に、ヒト胚に関する研究と産婦人科臨床との関係を明らかにし、科学によって提示される生殖の可能性がどのように臨床において扱われるのかを明らかにすることである。第5に、シンポジウムを開催し社会との対話を行う。以上の研究は、「ヒト胚」という生命の萌芽に関する医学、法、スポーツ科学、臨床における扱いに関して、どのようなプロセスで、どのような価値や人権に配慮するのかに関する対話を可能とする事を目的としている。現代の社会は、生命への医科学的介入に対する法形成という責任を負っており、その責任を果たすためにはこうした対話が必須である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究期間が約半年と,当初の計画期間よりも短くなったこと、コロナ禍により研究会開催及び海外調査が不可能だったことによる。 次年度使用計画は、第1に、研究総括として2022年3月にシンポジウムを予定していることから、その準備のための報告原稿や論文の翻訳費用(ネィティブチェック)に充当する。第2に、コロナ禍のため、資料収集におけるオンラインの比率が高くなることから、論文(外国書も含む)の電子データや雑誌データベースの購入費用にあてる。
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