本研究では、言説ネットワーク分析(Discourse Network Analysis)によって、政策争点に対する主張と関連アクターとの相互関係をネットワーク・グラフによって可視化する。これにより、政策争点をめぐってどのような利害対立があるのかを明確に捉えることができる。さらに、時間の経過とともに利害対立の構造がどのように推移したのか、そして最終的にはどのような帰結へと結びついたのかという政策過程におけるネットワーク・ダイナミクスを体系的・統一的に把握することができる。 原子力政策と消費税増税のそれぞれの政策争点について、政治家、官僚、財界、労働組合、市民団体、マスメディアなど、各政策に関連する諸アクターの発言(言説)や行動などが記載されている新聞記事やウェブサイトの情報などを体系的に収集し、専用分析ソフトDNAに読み込みんだ。そのうえで、各アクターの政策に関する発言箇所を抽出し、それらをあらかじめ設定したコードに割り当てるコーディング作業を行った。 消費増税について、2012年に8%に増税が決定した時点においては、当時の与党民主党内での対立の構造とそれに連なるアクターを鮮明に描き出すことができた。その中でも野田首相と「増税」「社会保障」という言説との強い関連がみてとれる。2014年に10%への増税を延期した際には、与党自民党幹部内を中心とした増税派のネットワークがみられる一方で、安倍首相からは慎重な言説がみられた。このように、政治状況に応じてネットワーク構造が異なるものの、最終的な決定には首相を中心とした影響力が大きいことがみてとれる。その意味では、対立をはらみながらも、従来の日本政治論で指摘されてきた首相の集権化という特徴と整合している。このように、ネットワーク構造の可視化を通して、日本の政策形成過程や政治権力構造に関する議論に貢献できることを示した。
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