研究課題/領域番号 |
20K20755
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小沢 浩 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (40303581)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | パターン認識 / 財務諸表分析 / MTシステム |
研究実績の概要 |
本研究は、MTシステムのパターン認識技法を用いることで、財務諸表上の数値から定性的な性質、例えば、業種、戦略、業界でのポジション、財務的健全性を読み取る技法を開発しようとする研究である。その手始めとして、本年度は、財務データから業種を識別することに挑戦した。製造業のように固定資産が大きい業種と小売業音ように棚卸資産の回転が速い業種では明確な差が観察できると予測したためである。業種としては、自動車、鉄鋼、医薬品(家庭用・業務用)、鉄道、商社、百貨店を取り上げた。そして、これらの業種に属する企業の単体の財務諸表から、3年分の主要な数値(売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益、流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、自己資本)を取り出し、これらによって単位空間を構成した。そして、別の年度の、同じ企業の同じ項目を信号データとして単位空間と比較することで、業種の識別を試みた。 結果としては、同業種の中でもばらつきが大きいこと、また、業種間の差異が明確でないなどの理由から十分な識別がでいいなかった。識別率は40%程度とサイコロを転がす程度の識別率であるため、不十分と言わざるを得ない。原因は、採用する項目が多すぎること、項目間で数値のスケールが極端に異なるため、例えば数値の小さな利益の影響が他の項目に埋没してしまっていることではないかと考えている。今後、これを改善するために、データの前処理を工夫すること、一度に処理する項目数は少なくして、複数の段階に分けて識別するなどの改善方法を考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
財務データから定性的な特質を識別することが思ったよりも困難であった。また、コロナ禍への対応で授業や学内運営に時間を割かれた。そのため、作業の進捗としては遅れている。しかしながら、今後試してみるべき方法にも目処がついており、対応に苦慮するほどの状況ではないと認識している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益、流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、自己資本という、財務諸表上の主要な数値をすべて取り入れて分析をしたが、不必要に多くの特性を取り入れすぎることによって感度が低下してしまっている可能性がある。また、項目間の数値スケールが一致せず、利益のように値が小さい項目の影響が反映されにくくなっている可能性もある。これらの問題を解決するために、一度に識別に利用する項目を少なくし、その代わりに、複数の段階に分けて識別することを試みる。また、今年度は、各数値に十分な前処理をしていなかったため、適切な前処理の方法を工夫する。さらに、各業種の任意の企業を取り出して標準サンプルとしたが、単位空間の精度を高めるために、きちんと定性的な検討をして選別した上で標準企業を選定する必要もある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
プログラミングやMTシステムの研修に参加する予定であったが、コロナ禍により出張ができなくなり実施できなかった。また、コロナ禍によって、オンライン授業への対応に追われたり、学内業務が増加したため、作業の進捗が遅れた。次年度も同様の状況が予想されるが、オンライン講習会なども充実してきたため、これらの機会を利用して研究を進めようとかんがえている。
|