2022年度に引き続き,財務諸表の数値から企業の属する業種を特定することを試みた。財務諸表のデータとしては,1966年から2004年までの個別の貸借対照表および損益計算書を用いた。個別財務諸表を用いたのは,連結情報では複数の業種が混在した情報であって,業種を識別するという本研究の目的に沿わないことと,2000年以前の古い情報が利用できないためである。また,業種として,商社,百貨店,電力,大手私鉄,造船,カメラの識別を試みた。これらの業種を選んだ理由は,棚卸資産や固定資産の大きさに顕著な違いが見られると考えたためである。なお,2021年度以前の分析においては,より多くの業種について分析を試みたが,上記の業種において顕著な特徴が見られることを確認している。 分析に当たっては,いわゆる教師データといわれる単位空間を定め,これと,分析対象となる企業のデータ,信号データとの距離を計測する方法をとった。そして,過去の分析余地,単位空間としては商社のデータを採用することが適当であると考えるに至っている。ただし,商社のどの期間のデータを採用するかについて検討を行った。1996年から974年,1976年から1984年,1986年から1994年,1996年から2004年のそれぞれを単位空間とする分析を試みたが,1996年から2004年がやや劣っている以外は,大きな違いは見られなかった。いずれの場合も,造船とカメラ,造船と百貨店の識別において精度が低かった。 分析精度を高めるためのデータの前処理の方法についても様々な方法を試みた。最も精度が高かったのは,各社・各年度の(負債+資本+収益)を分母として,棚卸資産,有形固定資産,無形固定資産,売上高,営業利益を特性値として用いた場合であった。さらに分析精度を高めるために,様々な前処理方法を工夫したが,顕著な成果は得られていない。
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