本研究課題は、実証実験に基づくプログラム評価の理論モデルを構築することを目的としており、とりわけランダム化が困難な状況に適用可能な方法を提案することを目指している。昨年度までは被験者の属性や実験者の操作に関するモデルの拡張を行い、最適制度設計の定式化や費用便益分析に取り組んできた。 今年度は、昨年度までの理論分析に基づきオンライン上で実施可能な実験設計を検討した。効果を検証したい何らかの処置について、被験者への参加報酬あるいは参加費用を変化させることにより異なる属性を持つ被験者プールを作ることが基本的なアイデアであるが、実際上はモデル分析で考慮に入れていない問題が多く存在する。それらを類型化し、本研究の限界を詳細に分析した。 最も重要な問題として、募集段階における介入自体が様々な行動バイアスを通じて処置効果に影響する可能性がある。「選択のブラケティング」や「互酬性」は、実験中の努力に対して金銭的報酬がある状況では参加報酬自体により実験中の努力を増減する効果を持つと考えられる。本研究はこういった行動バイアスとの相互作用が小さいと考えられる処置にのみ適用可能であることが明らかになった。また被験者の異質性に関して、実際の実験環境では外れ値のような振る舞いを示す被験者をどのような条件で除外してよいかモデル上は答えを出せていない。 本研究期間を通じて、ランダムに処置を割り当てることが難しい状況においても処置効果に関する一定の情報を得る方法を提案することができたが、一方で様々な限界があることも明らかになった。そのため、既存の実験設計や効果検証方法と組み合わせて利用することで、分析の精度と信頼性を高めることができると期待される。
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