研究課題/領域番号 |
20K20766
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石川 竜一郎 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80345454)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 経験財 / 帰納的推論 / 選好形成 / 推薦システム |
研究実績の概要 |
当該年度では、職業訓練プログラムを通じた、実証分析を行った。職業訓練においては、参加者は自分の希望職種、自分の得手不得手、訓練プログラムの好みなどが相互に依存しながら、プログラムの選択を行う。例えばコンサルタントになりたいと考えている労働者が、分析能力に自信があるものの、リーダシップに自信がない状況下で、どのようなことをトレーニングするかなどの問題がそれに当たる。 この状況で難しい点は、当該労働者が自分の不得手をどの程度認識しているか、また自分の得手が客観的にどれくらいの優位性となるかを個人が認識しているとは限らないなどが挙げられる。そうした認知の主観性による訓練プログラムの選択行動と、訓練終了後の満足度を検証し、プログラムの効果を測定した。 このプログラムを通じた、プログラムの選択行動に基づく選好形成は帰納的学習モデルの適切な応用先として考えることができる。実際、プログラム参加前には労働者は自らの主観的な属性があるのみで、プログラムの(主観的)効果の情報はない。反復的にプログラムを選択することで選好を学習していくことになる。 分析を通じて、労働者の自己認識のタイプに応じた選好形成パターンがあることを観察できた。実際、自分の能力にある程度の自信を持っている労働者に関しては、プログラムの出来・不出来に準じた満足度を得ていた。また、自身の評価を低く認識したタイプの労働者に対しては、プログラムの不出来がむしろ自分の弱みの発見につながったという意見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
このプロジェクトの実証的調査を開始することができ、それにより理論的な選好形成モデルの検証の準備が可能となった。この進捗は当初の計画通りといえる。
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今後の研究の推進方策 |
帰納的推論に基づく選好形成理論構築を行う。実証研究で得られた成果を基礎に、各主体のタイプを与える不完備情報ゲームとして定式化する。標準的な不完備情報ゲームと異なるのは、各主体は自分のタイプを知ることができず、むしろそのタイプに依存した帰納的学習パターンを通じて、自分の選好がなされていく動学モデルを考える。この動学プロセスが安定的になる状況を分析することで、主体の選好の安定性を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ感染症の影響で、海外出張および実験が滞った。コロナ感染症の収束の程度にも影響するが、コロナ感染症が収束すれば、進捗が大きく前進すると考えている。
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