研究課題/領域番号 |
20K20784
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
澤田 千恵 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (20336910)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 精神障害 / 精神科医療 / リカバリー / 対話 / 薬物療法偏重 / パラダイム / バイアス / 文化 |
研究実績の概要 |
現在、精神障害の治療においては、向精神薬を用いた薬物療法が中心を占めている。向精神薬は脳に直接作用し、その人の情動、アイデンティティ、行動、他者との関係性にも影響を及ぼしてゆく。それゆえ、精神障害者の支援においては、服薬がその人に及ぼす影響を理解することが必要である。 患者が訴える症状に対して対症療法的な投薬が行われたり、服薬と関連性のある状態変化が精神症状の悪化と混同されたりすることにより、薬の種類や量が増えてゆく傾向も見られる。そこで、このような精神科治療に見出される「増薬のループ」を、回復を促進する「リカバリー・ループ」へと転換するための方法や社会的条件を明らかにすることが本研究の目的である。本研究においては、向精神薬の服用がもたらす状態変化の読み解き方やそれらに基づく対応方法の違いが、精神障害者のリカバリーに大きな影響を及ぼしているという仮説に基づいて、リカバリーを促進する認識のあり方を明らかにする。 以上の目的に沿って、今年度は精神障害者の家族・遺族と対話を重視する診療を行っている精神科医や、精神科病院に勤務する薬剤師にインタビューを行った。また、対話を重視している診療の観察研究も開始した。えられたデータの分析はこれからだが、 現在の日本の精神科医療が薬物療法に偏重している理由として、診療時間が短時間であることだけでなく、疾患中心モデルの影響が大きいことがわかった。さらに、医師の責任が非常に重く、医師に過重責任を負わせるしくみがあり、精神疾患の重篤性イメージ(「廃人化」バイアスや「病識欠如=自己決定不全」バイアス)が組み合わさることで、強制投薬や強制医療といったパターナリズムにつながっている。社会モデルや対話モデルを導入するためには精神医療におけるこのような認知の枠組み、すなわち、パラダイムや文化を検討する必要があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響により、実地での調査が困難であったが、オンラインでのインタビューを積極的に行うことにより、研究を促進できたと自己評価している。また、緊急事態宣言が解除された後、実際の診療場面での観察研究をスタートすることができたので、 それなりに順調に進めることができていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
日本の精神科医療において、薬物療法に偏重しない治療方法や支援方法を実践している医療機関や事業所の具体的な取り組みを調査する。当事者のリカバリーを支援している民間のグループを対象にアンケート調査を実施し、当事者が考えるリカバリーや当事者が求める支援について明らかにする。フィンランドのオープンダイアローグについて学び、 日本に導入する上での課題について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、実地での調査ができなかったため、旅費を中心に費用を消化できなかった。今年度は国内外での実地での調査がどこまで可能であるかわからないが、可能な限り実地での調査を行うことと、それが難しい場合は、海外調査に関してもオンラインでの聞き取りができるよう、調査会社にコーディネートを依頼する方法で進めていく予定である。海外調査のコーディネート費用や取材先への謝金などに多くの経費を要することになると考えられる。
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