研究課題/領域番号 |
20K20790
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
奥村 信幸 武蔵大学, 社会学部, 教授 (00411140)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ジャーナリズム / ニュース / 災害報道 / リスクコミュニケーション / デジタル / デジタルストーリーテリング / データジャーナリズム / マルチメディア |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウィルスの世界的なまん延もあり、海外・国内とも現地を訪れてのヒアリングや意見交換を行うことができなかった。研究協力者らとは、1カ月に1回程度、オンラインで情報交換、意見交換を行った。新型コロナウィルスに関する報道には、以下の点において災害報道と共通する点が多いことから、いずれかの時点でコロナ報道の特徴を挙げて検証し、災害報道の教訓や、新しい課題の設定に生かしていくことを目標とした。新型コロナウィルス報道について、今後の災害報道に生かせる可能性と検討している点は以下の通りである。 1)データの集積と整理、及び分析とアウトプットの役割分担:新型コロナでは、政府や地方自治体だけでなく、医療機関などのデータが交錯し、有用な情報をピックアップし報道につなげる作業の困難さが浮き彫りになった。しかし一方で東洋経済などに所属するデータエンジニアや、医療に詳しいデータ処理専門家らが独自のサイトを通じて、整理されたデータの公開と分析が進んだ。災害時の気象などの情報や予測、警戒や緊急避難情報のほか、避難所の食料など復旧復興過程における、ローカルな詳細な情報など、形態や用途に応じたデータの選別と、利用者に届く効果的な発信をリンクした、情報・データ伝達のルートの構想を目指していくという方向性を決めていく予定である。 2)リスクコミュニケーション:東日本大震災に伴う福島第一原発事故と放射性物質の汚染と新型コロナウィルスの感染状況は、一部の専門家しか正確に理解できないデータの読み解きを一般の読者にもわかりやすく解説をするという「正しく怖がる」という側面、また人々の生活や経済などの影響を優先して考え、報道に政治的な影響によるバイアス(東京電力や東京五輪など)をいかに排除し科学的に正確な情報を伝達するかという課題を共有しており、比較検証する視点として活用したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により、昨年度はすべての対面を前提とした視察やヒアリングを自粛せざるを得なくなった。また、医療と公衆衛生関係の報道という、必ずしもリソースが豊富でない分野の仕事でメディアの現場も疲弊しており、落ち着いて話を聞ける状況ではないと判断し、新型コロナ関連のニュースを詳しくウォッチし、研究協力者らと意見交換、分析を深めることに重点を置いた。 感染の状況を伝える政府や自治体、保健医療機関のデータは多岐にわたり、また単位を揃えて比較しなければ誤解を招くような場合が多く、加工しての発信や評価については、いわゆる伝統的なメディアである新聞やテレビが必ずしも優れているわけではなく、ネットメディア(出版などがネットメディアを立ち上げたものも含む)や民間の研究者などのまとめ方なども評価され、さまざまなアクターによる分析やサービスを人々が使い分けている実態が少しずつ見えてきている。 この傾向を災害報道に当てはめて考えると、インターネットの高速化とスマートフォン(スマホ)が充分に普及している現代において、自治体や政府が持っているデータは、報道機関がリアルタイムで共有し独占的に発信するのではなく、ホームページやアプリの充実によって、避難情報など重要性の高いものは報道機関を経なくても直接、市民やユーザーに届くという、新しい情報の経路が確立されつつある状況が明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの議論をさらに進めるため、今年度は自治体などが持つデータを(報道機関を経由しない場合も想定し)いかに素速く加工し、わかりやすい形でユーザーに届けることができるかという、新しい災害情報伝達の「エコシステム」のイメージをより具体化することに力点を置いていきたいと考えている。 具体的には地方自治体の気象や災害情報、避難や生活情報などを集積し発信するサービスを行ったNPOや民間の組織などからヒアリングを行い、住民が必要としているデータの発掘(台風の大きな災害の後には、ホームセンターの開店情報などの需要が大きいにもかかわらず、地方公共団体の情報網からは漏れていることが多いなど)、整理のノウハウ(情報の受信と整理から発信までのひな形やプラットフォームを全国の団体で共有する動きが始まっていること)など具体的なヒアリングを行う予定である。 また、従来からの課題であった、GoProやドローンなどのデジタルツールをいかに効果的に災害報道に活用するかも併行して関心を継続していこうと思っている。 新型コロナ感染収束や、海外との往来の回復にはいましばらく時間がかかることが考えられるため、当面はオンラインでの調査とディスカッションを継続することになる見通しだが、条件が許せば、年度の後半には現地を視察しての本格的な調査を1本でも行えたらいいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの世界的なまん延により、対面での調査が国内、海外ともできなくなってしまったため。 本年度はオンラインでのインタビュー調査などを強化し、謝礼や資料、データの入手、オンラインでの国際学会などの情報収集などにも予算の使途を拡大したい。
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