小学校の理科では「チョウを育てよう」の単元でモンシロチョウ等を例として実際に児童が飼育・観察する学習がある。しかし,蛹から成虫に変態する「羽化」の現象の大半は明け方の数分間に行われ,児童が観察することはほぼ不可能である。「チョウの羽化の瞬間」に立ち会う直接体験は,生命の神秘性や尊さ,そして何よりも感動を呼び,その感動が児童・生徒のその後の人生に大きな影響を与え,多大な教育的効果が期待される。本研究の主とする目的は,大きく2つあり,1つは小学校の授業時間中にチョウの羽化の現象を観察させ,感動のある生物観察を実現させる教材の開発(羽化制御法)を行うことであり,2つ目は利用可能なチョウの探索及びフィールド調査も並行して行い,絶滅に瀕しているチョウの調査から環境教育,保全生態学に関する教材開発を行うことである。 日本には約250種のチョウが生息しているが,学校現場で利用されるチョウは,モンシロチョウ,アゲハ,キアゲハなど数種類に過ぎない。そこで,羽化制御法に適したチョウの種をフィールド調査により探索的に調査・選択するとともに,環境教育や保全生態学の観点からもアプローチ可能な教育的な教材として検討を行った。 その結果,羽化制御法については,全国に広く生息しているモンキチョウ(Colias erate)において,人工気象器内で行った実験で,発育零点と有効積算温度から,①蛹の色が緑から黄色になる,②蛹の第4腹節付近の空隙化に伴う質量の減少が78~84%,の2条件を満たす場合,20蛹中15蛹が低温から加温後,25~45分以内に羽化することが確認でき,実際の学校現場での実用が可能であることが示唆された。また,フィールド調査では,アポイ岳のみに生息する絶滅危惧種ヒメチャマダラセセリの保全活動,西表島のリュウキュウウラボシシジミなどの調査も行い,環境教育や保全生態学の観点からの教材が検討できた。
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